裏なんて誰も知らない/鬼歌



加湿が十分されてる部屋。
僕の部屋も決して綺麗とは言えないけど、鬼龍院さんの部屋はホント汚い。
作業が佳境に入ったら生命活動に必要な事でさえ疎かにしちゃうから、必然と言えば必然なんだろうけど。

やっと作業が終わって、僕に構ってくれる時間が出来て。
頑張ってた鬼龍院さんにホント気紛れで『ニーハイ履いてあげよっか』って言った時の、嬉しそうな気持ち悪い顔された時は何で僕はこの人と付き合ってるんだろう…と、付き合いその物を後悔した。


いつも鬼龍院さんがパソコン置いてるデスクに腰掛けて下着姿に黒いニーハイって認識したら死にたくなる姿でトランクスのみで床に正座する鬼龍院さんに足を差し出す。

片足は鬼龍院さんの肩に掛けて、もう片足は手に取って布の上から僕の足の指を1本1本丁寧に舐めしゃぶる。

そりゃ男だからニーハイの絶対領域は好きだったりするけど。
この人のニーハイの足に対する執着は異常。

最初は土下座してニーハイ履いてって頼まれて、ドン引きしたけど、まぁそこは、惚れた弱味と言いますか。
必死な鬼龍院さんに根負けして、たまーに履いてあげてたりする。


布の上からの足の指への愛撫がむず痒い。
時折、甘噛みされたり、吸い付いて僕の方をチラッと見る視線とか、不意に格好良く見えるから、狡い。


「い゛…ッ」
「あっ、ごめ、痛かった?淳くん」


親指から舐めてら鬼龍院さんの舌が、小指を舐めて噛んだ時にビリッとした痛みが走って思わず声を上げてしまった。

鬼龍院さんは反射的に顔を上げて、謝りながらそこを指で撫でた。

あんまり意識してなかった時は大丈夫だったのに、一度痛いと認識すると少し触られただけでも痛い。
嫌でも原因はわかる、出来れば触れられたくない傷。


「…平気、っ」
「淳くん、怪我してるの?ちょっと見せて」
「や、何でも無いから大丈夫だからやめて」


やめてって言ってんのに、鬼龍院さんは僕が痛がった左足の方のニーハイを脱がしてしまう。
露になった左足、鬼龍院さんはマジマジと見下ろして。

あーもう。
見ないで。
気付かないでいいよ。

お願いだから。


「…え、淳くん左足小指の爪どうしたの?」
「………」


僕の足の指の爪がないのを見つけると、普段ほっそい目を精一杯開いた驚いた表情で僕の顔と足を交互に見る。

まだ治る手前の、足の小指の爪が剥がれた跡。
小さいけど生々しく肉が丸出しになって乾きかけのそこは、一度認識してしまえばじわじわと痛みが増して来た。


鬼龍院さんに会えるのが嬉しくて忘れてた。
やっぱ治ってから会えばよかった。


しまった、って顔で下唇を噛む。

僕の足の指から視線を上げて、心配そうな鬼龍院さんと目が合ったから慌てて悟られない様に笑みを作った。

よくライブ中に言う、芝居がかった媚びた声を出す。


「ッ、この前、部屋ん中で小指思いっ切りぶつけちゃって、剥がれちゃったの!」
「えぇっ、大丈夫なの!?ってか爪剥がれるまでぶつけるって…」
「あーもう、僕が圧倒的なのわかってるでしょ!」
「それはそうだけど…あんま怪我しないでよ、心配だから」
「…だったら『痛いの痛いの飛んで行けー』ってして、鬼龍院さん。そしたら治るから」


鬼龍院さんの口元に、足を差し出す。
一瞬、言われた事が理解出来てなかったのかアホみたいな顔をして、ヘラッと笑う。
僕の足を手に取って、子供にするみたいに手をかざして撫でて飛ばすフリをする。


「痛いの痛いの、所さんに飛んで行けー」
「何それ。所さんに怒られるよ」
「でもこれで明日『タンスの角に小指ぶつけた』とか言われたら面白くない?」
「あはは。それいいかも」


何かムードも糞もふっ飛んだ雰囲気の中。
鬼龍院さんは続き、とばかりに僕の足の指を気遣いながら脱がしてしまった素足の僕の足をゆっくり舐め上げる。

ニーハイ履いてなくても、そうする鬼龍院さんは執着してくれてるのが僕の足って事にちょっと嬉しさを覚える。
やってる事は、僕が好きな甘い雰囲気には程遠い事なのに。


鬼龍院さんがいれば、僕は何でも耐えられるよ。
だから捨てないで、また『痛い痛いの飛んで行け』って、してね。




20120517



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