恋人の趣味/玲流




いやね、俺的には見なくてもいいモンは見えなくていいって思ってる訳で。
あんまDVDとか観る習慣はねー訳よ。

でも俺の恋人は怖いの、グロいの、スプラッタ、サイコ、そんな話が大好きで。
どっから手に入れたんだよそんなモンってまで買って来るんだけど。

強制的に観させられるソレは出来れば俺は観たくねー。

俺にだって苦手なモンぐらいはありますよ。


部屋の照明を全て落として、テレビの液晶の光だけの部屋の中。
テレビ正面のソファに座って、ルキが俺の半身にベッタリくっつき、両膝をソファに立てながらテレビ画面に見入る。

それは可愛い。
めちゃくちゃ可愛い。

ルキの肩に腕を回して更に自分に引き寄せる。


一緒に映画観ようっつって、何も言わず観始めた映像が怖いヤツじゃなければな。


コロンと遊んで気をまぎらわせようとしたけど、コロンはルキに散歩行ってもらって満足したのかルキと反対側の俺の太股にぴったり寄り添って丸まって寝てる。
畜生、両方共可愛いけどさ!


人間、怖い物観たさで観たくねーけど観てしまう、結構本格的に発禁じゃねーのってぐらいのホラーを何となく観る。


「…はー…何かコレ外れかも」
「…面白くねーの?」
「ぬるい」
「そー…」


ルキが溜め息を吐いて少し俺から離れてテーブルに置いた珈琲の入ったマグカップを手に取って、また俺の方にくっつく。


「じゃ、もう消す?」
「…なーに、れいちゃん、怖い?」
「…別に」
「あはは。お化け屋敷も無理だもんね」
「るせぇな。余計な事バラしてんじゃねーよ」
「あれ?見てた?」
「見てるに決まってんだろ」
「ふふ」
「随分後輩に慕われてるみたいだけど?」
「あー、ね。可愛いね、猟牙ちゃん。何か純粋っぽくて」
「仲良いの?」
「んー?欲しいの?玩具に」
「他人に興味ねーからそれはいらねー」
「ってか俺はれいちゃんみたいに心広くないからね。ペットだろうが玩具だろうが、許さないよ」
「知ってるっつの」


別に俺も心広くねーよ。

ルキの我儘が可愛いから、何でも言う事聞いてあげたくなるだけ。


ルキが持ってるマグカップを取って珈琲を一口飲む。
少し温くなったソレをルキに返せば、いらないっつーから腕を伸ばしてテーブルに置いた。


ルキの興味は、外れだと言ってたDVDではなく俺の方に向いたみたいで。

無駄に凝りまくったグロい感じのを垂れ流しにしたまま、俺の腕の中で身体の向きをこっちに変えた。


「でもさ、皆でお化け屋敷とか行ったら楽しそうじゃん」
「あー…」
「夏の風物詩だろー?」
「ルキだけ行ってくればいーじゃん」
「へぇ。猟牙が調べてくれるっつーし、猟牙と2人で行って来るわ」
「お前…」
「嫌なら一緒に行けば?」


背凭れに肘をついた状態で、ルキが眼鏡越しに目を細めて楽しそうに笑う。

暗闇の中、テレビ液晶画面の光で青白い顔。


この性悪が。


ルキの顔を両手で挟んで、ゴツ、と額を合わせる。
間近になった顔は焦点が全く合わねーけど。


額を合わせたまま、グリグリするとルキは笑いながら逃げようとするけど、逃がさない。


「堂々と浮気発言かこの野郎」
「いてーよ馬鹿!だって何かすんなら、れいたと一緒がいいじゃん」
「は、」
「れいたがいねーとつまんねーから、一緒がいーの」
「…ならもうちょっと軽い遊びにしろよ…」


俺が苦手じゃねーヤツをな。
ホラー系苦手ってわかってる癖に、そんな言葉で誤魔化そうっつーの。

それに乗りそうな俺も俺だけど。


ルキの額から離れて、ちょっと溜め息を吐くと笑いながらルキが両腕を俺の首に回す。


「俺は好きだもん。スプラッタやホラー」
「知ってる」


いやホント、出来れば観たくねーんだよ、俺は。

でも我儘で可愛い恋人持っちゃったら、仕方ねーか。


そんな事を思いながら、ちょっとはムカつくから。
八つ当たり気味に両頬を軽く左右に引っ張ってやると可愛かった。

怒られたけど。




20120730


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