感情が向かう視線の先/鬼歌
沖縄の野外ライブ前。
顔面整形もして、髪もセットして。
リハも一応終わったから楽屋で各自好きな事過ごしてて。
僕はと言えば、吸入器片手にパソコンいじって気をまぎらわせる。
何回やってもライブ前は失敗しないかとか不安になる。
本番までは何時間か時間はあるけど、チェックしなきゃいけない事もあって作業してるけど。
ライブの事も気になるしあまり集中出来無い。
溜め息を吐いて、一旦区切りを付けてパソコン画面から目を離す。
伸びをして、パイプ椅子の背凭れに背中を預けると、今まで集中して遮断されてた外野の音が聞こえて来る様になった。
メンバーの話し声が聞こえる方に視線をやると、淳くんは上半身裸で一生懸命に日焼け止めを塗ってた。
あぁー沖縄日差し強いもんね。
雲が多くて雨かなって心配したけど大丈夫っぽいしね。
「あーん!背中塗れなーい!研二っち塗ってー!」
「いいよ、いいよ。どうせなら女の子に塗ってあげたいけど、おいでー」
「わー、その発言引くけど、ありがと」
淳くんが鏡見ながら背中に日焼け止め塗ろうとしてたけど、自分で塗れ無かったらしくて近くにいた研二さんに日焼け止めクリームを渡して背中を向けた。
何となく、そのやり取りをじっと見つめる。
「背中も塗るの?」
「うん。ライブで脱ぐかもしれないでしょ。焼けたくないじゃん」
「ヴィジュアル系だから?」
「それもあるけど、僕個人的に。研二っち日焼けしたら似合いそうだねースタイルいいし」
「ははー、白塗りだから顔以外焼けるだろうねぇ」
「素っぴんの時、ある意味白塗りだね。ウケる」
「チンコって文字だけ日焼け止め塗らないでいい?」
「ちょっとぉ、そんなガーリーじゃない言葉やめてよね」
あーでも日焼けで文字書くのは鉄板だね、ネタになって楽しそうだなぁ。
2人の聞こえて来る会話を何と無く聞きながら、研二さんが淳くんの背中に日焼け止めを塗るのを観察する。
あー確かにビーチで水着姿の女の子に塗ってあげるのはいいなぁ。
そっからエロい事に発展するAVとかあったし。
じゃれ合いながら日焼け止めを塗って貰う淳くんを見てたら、不意に僕の方を見た淳くんと目が合った。
何となく、見てたのが気恥ずかしくて視線を逸らす。
ちょっと不自然に目が泳ぐ。
付き合う前はそんな事無かったのに、付き合ってからは何だかんだ、淳くんの姿を目で追ってる気がする。
付き合うって不思議だ。
その日から、関係性が変わっただけでその人を見る感覚が違うんだから。
結構長く付き合ったのが、淳くんが初めてかもしれない。
そうなると、結構好きなんだろうなって思う。
僕が作業してる時や、寝そうな時、気を使って極力近づかないようにしてる淳くん。
そんな彼が塗り終わったのか、嬉しそうな笑顔で僕の方へ近寄って来た。
やっぱ見てたのバレバレだよね。
ちょっとだけ恥ずかしい。
何となく。
今、淳くんの事を好きって再確認したばっかだし。
「鬼龍院さんも塗る?日焼け止め」
「あーでも僕あんまり肌出てないし」
「もー、めんどくさがったらダメじゃーん!」
淳くんは僕の隣にパイプ椅子を引っ張って来て座った。
手に持った日焼け止めを差し出されたけど、あんま塗る習慣が無い僕はめんどくさいなって。
あと、手が汚れるのが嫌かな。
「沖縄って何かいいね。また旅行に来たいな」
「うん」
「星綺麗だったし。昨日ね、研二っちとマネさんとご飯行った時に見上げた夜空が東京と違っててね、よかったの」
「そうなんだ。何かそう言うのって歌詞降りて来そうな気がするね」
「…そんなの、名曲になるに決まってるじゃん。一緒に見たいな、その星空」
「一緒に見ようよ」
「いいの?」
「聞かなくていいよ。だってそう言うの…うん。恋人、と見たいじゃない」
「鬼龍院さん…」
自分で言ってて恥ずかしい。
けど、嘘なんて吐けないし、僕はあんまりロマンチストな事は出来無いけど。
純粋に、淳くんとそうしたいって思えるよ。
口元に手を当てて、嬉しそうな淳くんに自分も嬉しくなる。
ちょっと柄じゃないなって思って何か下ネタ言おうかと思ったけど。
テンション上がって楽しそうに喋る淳くんを見てやめた。
あぁ、幸せな気分に浸ったら、歌が作れないかもしれない。
でもこの時間だけは、許して欲しいな。
終
20120730
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