「おい、お前何やってんだよ。確かお前は便所掃除だろ?」

「あんなとこ、汚くてやってらんないよ。それより、お前こそ掃除はどうしたんだよ」

山崎は、捲り上げた隊服の袖を下ろしながら聞いた。


「いや、何でも沖田隊長と菜々ちゃんの大掃除が大変な事になってるって噂で…」

それを聞いた隊士は、繭を吊り上げた。


「沖田隊長って、たしか部屋担当だよね?」

「ああ」

二人の顔がみるみる不安にかられていく。

「…ちょっと見に行きますか?」

「ああ」



二人は、沖田と菜々のもとへ走って行った。





「全く、山崎は部屋が汚いでさァ」

「そう?男の人にしてみては綺麗なもんなんじゃない?」

私は、服を拾っていた。
退くんの部屋はさっきとは違って、基本的に綺麗で私は気が楽だった。


「おっと、こんなとこに落書きがありやした。捨てときやしょう」

そう言って、そーごが掴んでゴミ袋に入れたのは…



「それお通ちゃんのサインンンンンン!!!!」

息を切らして部屋に飛び込んできたのは、



「何でィ、騒々しいな山崎」


退くんだった。


「隊長ぅぅぅ!!なんてことをするんですか!!これは、副長の目を盗んでやっと書いてもらった宝物なんですよ!?」

「おう、そりゃ悪かったねィ」

「そう言いながら何で燃やしてるんですかぁぁぁ!!??」


ボウッ、とけたたましい音と共に燃えていく退くんの宝物。
哀れの目で見る、暖かい皆。
私もその一人だった。

「おい、なに手止めてんでィ菜々」

そーごに言われ、ハッとなる私。

「あ、ごめん。いや、退くんの部屋が余りにも綺麗だから…もう服の整理終わっちゃって」

見渡せば、部屋は大分綺麗になっていた。

「ならこのゴミ袋持ちなせェ」

そう言って、そーごは袋を渡してきた。
私はそれを横目で泣いている退くんを見ながら受け取る。

私はそーごに耳打ちをした。

「そーご…、ちょっと退くんが可哀想だよ」

「そうですかィ?」

「うん」

私が即答すると、そーごは仕方ないですねィと言いそこらにあった紙に何かを書き始めた。

「これ渡しときなせェ」

「…?」

私はそれを受け取り、表にして見てみると…
そこに書かれていたのは


[さっくんへ、お通☆]


「…いや、そーごバレると思うよ?」

「大丈夫でさァ」「いや、バレるよ。これ、確実に」

「いいから渡しなせェ」

そーごが強く言うので、私は退くんに渡す事にした。

「退くん…はい」

「…?」

退くんは目を擦ってそれを受け取った。
そしてそれを数十秒後、顔色一つ変えずに口を開いた。


「何か違くね?」

「いや、そんなんだったよ最初から」

私は軽くフォローをした。

「いや、違うでしょ。さっき燃やしてたじゃん」

「あれは、ちょっとしたサプライズでさァ。最近、手品にはまっていてねィ」

「手品かっ!?あれ、手品だったんですか!」

「うん、そうみたい。だからそれは、正真正銘のお通ちゃんのサインだよ」

「いや、でもお通ちゃんに貰ったの[☆]じゃなくてハートだったんだけど…」

「まあ、深いことは気にすんなって」

「俺、さっくんなんて呼ばれてませんけど。山崎くんでしたけど」

「進歩じゃん。やったね!」

「全くよくないですよ!」

退くんが嘆くなか、そーごと私はテキパキと作業を進めていく。

「これもいらない」



ポイポイとゴミ袋に物を投げいれていく隊長と菜々はどこか楽しそうだ。

何もかも、独断で捨てられていくが隊長の事だからどうせ、何を言っても無駄だと思って堪えている。

どうせ、部屋にあるものなんて…大切なものはほんの少ししかないんだし。


そう思って、二人が処理してくのを黙って見ていたら隊長が何かを見つけたようだ。


「あれ?こんな所に、杓文字(しゃもじ)が2つもありまさァ」

「杓文字?あ、本当だ」

菜々が見たのを確認して隊長は言った。


「これも、いりやせんな」

「うん」

そう言ってまた一つ、ゴミ袋に投げ入れた。

俺はそれを確認するため、袋に目をやると…



「それラケットォォォォォ!!!!!!」



その後、沖田と菜々が部屋を出て行くまで山崎の叫び声が鳴り止むことはなかったそうだ。


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