第四章

神威に手を引っ張られ、街中を歩く。手を振り解こうとしても、しっかり握られていてどうしようもない。
こんなとこ、他の隊士達に見られたら誤解される。

「蛍華、あの着物綺麗だよ。着てみない?」

私の心配などよそに、呉服屋のウィンドウに展示されてる着物に指を差す神威。
確かに着物は綺麗だけど…。

「着ない」

即答すると、残念、と思っているのかどうだか分からないが、肩を竦めて見せた。

「蛍華は普段、どこに行ってる?俺は、テキトーにフラフラしてる事が多いから、よく部下が怒ってくるよ」

「お前が上司だと、部下も大変だな」

「そうだろうね。俺、世渡りがヘタだし、かなり苦労していると思うよ」

皮肉を込めて言ったつもりだったのに、そう素直にとられるとは思わなかった。

「その内、胃に穴が開いたりして」

…やはり、神威はマイペースだ。とんでも無い事を、ケラケラ笑いながら言う。

「で、蛍華はどこに行ってるの?」

「…………」

教える必要も無い、と思い、沈黙を決め込んだ。

「せっかくデートして、少しでも仲良くしようと思ってるのになァ。そんな黙りじゃ、進展しないヨ」

「私は進展するつもりは無い」

「どうすれば、蛍華は少しでも俺に心を開いてくれる?」

「心を開くも何も、元々敵同士なんだ…っ!!」

最後まで言葉を発せられなかった。さっきまで笑顔を見せていた神威が、真面目な顔をして、私の手を強く握り締めたから。
私は痛みで、顔を歪める。

「今日は、俺も蛍華も休み。敵も味方も無く、ただの男女として進展したいんだ。蛍華が少しでも歩み寄ってくれないと……」

驚いた。いつも軽い物言いしかしていなかったのに、こんな真剣な顔を見せられるなんて…。

「四六時中口説きに行っちゃうよ」

「……」

神威が真剣な表情をしていたのは、ほんの少しだけで、直ぐにまたニコニコとした笑顔を見せた。

「俺、こう見えても、一応気を使ってるんだよ?せっかく蛍華を見つけても、仕事中だったら、声掛けないようにしてるし」

「え…」

「でも、蛍華が普段行く場所教えてくれないなら、もう関係無く声を掛けに行くネ」

「甘味処!」

神威が一応気遣いしているのにも驚いたが、それをもうしない、となるとかなり困る。だから、つい叫ぶように答えてしまった。

「その…甘い物が好きだから…非番の時は、よく食べに行く…」

「へぇー、いいネ。蛍華は突っ張ってるより、そういう女の子っぽいとこみせてくれると可愛いよ」

「お前にそんな事言われても嬉しくない」

睨まれ口を吐くが、神威は私の手を引き、また歩き出す。

「神威、いい加減に手を放せ」

「ダメダメ。放したら逃げるでしょ」

「逃げないから、放せ。いつまでも握られていると不愉快だ」

仕方ないなーと言いながら、漸く手を放してくれた。逃げたとしても、神威なら簡単に追い付くだろうから、大人しく奴の後ろに付いて行った。


=続=

2010/06/15


[*前] | [次#]
戻る