第三章
「あれ?蛍華ってば、そんなに俺に着替えさせて欲しいの?分かった、任せなヨ」
「触るな」
手を伸ばしてきた神威の手を、ピシャリと叩きのける。
非番だったので、いつものように袴を着用し、町内を歩いていた。そこに、神威が現れたのだ。コイツ、私が非番の日に限って姿を見せる。もしかして、どこかで見張ってんの?
「返す」
先日、神威が送りつけた夜兎族の衣装を入れた袋を差し出す。しかし、神威はそれを受け取らない。
「着てって、言っただろ?」
「着れるか、こんなスリットの深い服なんか。他の女にやれ」
「やだなァ。他に女なんか居ないヨ。俺の女は蛍華だけだよ」
……なんか、意味を履き違えてない?
「他の知り合いの女に渡せと言っているんだ。それに、私はお前の女じゃない」
「知り合いの女なんかいないってば。あ、でも、この町のどこかに妹が住んでるか」
笑顔が消え、思い出したように目を開けてポンと手を打った。
…神威の青い目は綺麗、だとは思う。しかし、性格は最悪だ。
「妹がいるなら、妹にあげればいいだろう」
私のこの言葉に神威はまたニコリと笑顔になって、片手を横に振った。
「ダメダメ。妹は背も胸も小さいからネ。これは似合わないよ。それに、どこに住んでいるか知らないし」
「私の居る場所は直ぐ見つけるじゃないか。その要領で探せ」
「蛍華は愛の力で探してるけど、妹は愛せないから無理だなァ」
コイツはいつも言い方が軽い。だから、どうしても信用出来ない。
それ以前に、敵である春雨の幹部を信用する方が無理なんだ。
「いい加減にしろ。お前と私は敵同士なんだ。私はお前を愛すつもりは無いし、贈り物も迷惑だ」
そう言って、無理やりにでも服を押し付けた。神威はそれを受け取ると、残念そうに首を傾げる。
「んー…服が嫌なら、花束だったら受け取ってくれるよネ?好きな花は何?」
「…話をちゃんと聞け」
敵、という前に、人の話を聞かないという、独り善がりな部分が問題だな…。
「それにしても蛍華さ、喋り方が男っぽいよ。初めて会った時は、もうちょっと女の子っぽかったのに」
「お前が嫌いだからだ」
女らしい部分を見せて、これ以上好意を持たれてはたまらない。
「そっかー。俺は蛍華の事、攫いたいくらい愛してるヨ」
嫌い、と言っても、全く気にしていなさそうな神威は、ニコニコしてるだけだった。
「でも、いつまでも嫌われたままじゃ、進展しないよねー。と、いう訳で行こうか」
「は?」
神威は急に私の手を掴んで、引っ張るように歩き始める。
「ちょ…待て!どこに行くつもりだ!?」
動揺して、いつもより声が高くなってしまった。神威は振り返りもせず、
「そんな怯えなくても、いきなりホテルに連れ込んだりしないって」
と、楽しそうに笑う。
「怯えてない!もしホテルに連れ込んだら、殺してやる!!」
「夜兎の俺に勝てると思ってるの?」
「なら、私が死んでやる!!」
神威は足を止めて、驚いた表情で振り返った。
「それは困るなー。蛍華は俺の婚約者なんだから、勝手に死なれちゃ、ネ」
誰が婚約者だ!
と叫ぶ前に、神威は言葉を続けた。
「もっとお互いを知る為に、これからデートしよう。俺、今日はフリーだし、蛍華も休みだから、ちょうどいいもんね」
「良くない!したくない!!」
と、否定はしたが、自分勝手な神威が聞く筈もなく、また手を引っ張っり歩き出した。
=続=
2009/10/21
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