第二章
市中見廻りを終えて、屯所に戻ると局長に呼ばれた。
「局長、蛍華です。入ります」
一声掛けて、局長室に入ると
「おー、蛍華ちゃん、お疲れ!!」
満面な笑顔を見せて振り返る。私もつい、その笑顔に釣られて、微笑を浮かべた。
「それで、用は何でしょう?」
キチンと正座して、局長に尋ねる。
「いや、そんな畏まらんでも。蛍華ちゃんに荷物が届いたから、確認してもらおうと思ってな…」
そう言って、小包を私の前に出すと、局長は宛名を指差した。
「差出人が書いてなくてな。荷物が送られてくる予定とか、あったか?」
私に荷物を送ってくるのは、実家にいる両親くらいだ。だけど、差出人は分かるように、必ず書くように伝えている。攘夷浪士に恨まれやすいこの仕事だ。差出人不明の荷物をうっかり開けて、ドカンという事だってあり得る。
「何の予定もありません」
静かにキッパリと答えると、局長の顔が険しくなった。
「……怪しい荷物か。念の為に、中の音を確認したが、爆発物の類ではなさそうだ。開けて見るか?」
「……はい」
怪しい荷物でも、捨てて安全なものか、そうじゃないのかの確認しなくてはならない。
局長から小包を受け取ると、警戒しながらそっと開けて見る。中に入っていた物を見て、私は凍りついた。
「蛍華ちゃん、どうした?やはり変な物か!?」
局長の声に我に返って、思わず荷物の蓋を閉めて、立ち上がる。
「局長……大丈夫です、問題ありません。この荷物、送ってきた人物に心当たりがあります。失礼します!!」
局長の言葉も聞かず部屋から飛び出し、荷物を抱えたまま、急いで自分の部屋に戻った。部屋に入り、襖を閉めて深呼吸。
息が整った所で、手の中の荷物をもう一度開けて見る。……間違いない。
「神威のアホ!!本当に贈ってくるバカが、どこにいる!!」
荒く声を張り上げて、荷物を畳に叩きつけた。零れ落ちた中身は、夜兎族の衣装。差出人が書いてなくても、つい先日に「贈るよ」と言っていた人物が差出人だ。大体、私はいらないと……あれ、言わなかったか?
軽く溜め息を吐き、服を拾ってちゃんと見てみた。
本音を言えば、夜兎族の衣装は可愛いと思っている。万事屋の神楽ちゃんの服を見る度に、そう感じていた。
だが、自分が着るとなると別問題。
「こんなスリットの深い服、着れるか!!」
只でさえ、脚を出すのが好きでは無いのに。
私が入隊した時に、スカートの隊服も貰ったが、未だに着ていないくらいだ。
再び軽く溜め息を吐いて、箱に仕舞おうとした。そして、中に手紙が入っているのに気付いた。封筒にも入れられていない手紙の内容は
『次の休みの時は、これを着てネ。着てないと、俺が無理矢理着せちゃうゾ』
……なんかもう、語尾の片仮名がムカついてくる。
誰が着るものか。絶対、着るものか。次に会ったら、叩きつけて返品してやる。
=続=
2009/08/04
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