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隊長


霞のトリガーセットもあらかた決まったところで、ようやく実際の練習をすることとなった。まずは互いの戦闘力の確認から、ということで、本日は訓練室での戦闘訓練が主となった。

「す、すごいね……ま、まだトリガーつかって、すぐ、なのに」
「どうも」

さっそく優希から2本奪った霞は、新しいトリガーに違和感が残るのかレイガストを何度か持ち直していた。霞はサブトリガーとして、レイガストを選んだ。レイガストについているオプションが気に入ったらしい。それにしてもいきなり2対3。これから特訓していけば、追い付き追い越していくだろう。ほんとに強いんだなあ、と優希が霞を見たまま頷いた。

「……優希さんって」
「へっ! な、な、なに……?」
「怒ったこと、ないんですか」
「お、おこ……?」
「おれに一度も文句言わないし」

なんで?と霞が首を傾げた。こてんと首を傾げるその姿は、自分よりずいぶん背の高い男の子が初めて年下に見えた。優希は少し考えて、「お、怒るようなこと、あ、った……っけ?」と霞を覗き見た。

「いや……まあ。みちるさんが怒ったような内容は一通り怒っていい内容だと思いますけど」
「みち……ああ、あ、入隊理由、とか?」
「はい。普通に失礼だと思うんで」

「そ、そっか……」失礼だと思いながら言ったのか……と優希はうーんと考えた。失礼と思ってるなら、もういいんじゃないかなぁ。自分で気付けてるだけ偉いよなぁ。霞は優希を見たまま黙っていた。

「え……っと。わたしは、その。あんま霞くんのしたこと、悪いと、思わなかった、から」
「はあ」
「む、むしろ、あの、いい子だなって……」
「おれがですか?」

怪訝な顔をする霞。さすがにそれはないと思いますけど、と眉を寄せていた。

「だ、だって、ほら、あの……」
「なんですか」
「そ、そう。聞いてくれる、から。霞くん」
「聞く?」
「わ、わたしの話、待ってくれる」

そうだ。初めて会ったときも、今も。霞は優希の話に「はい」と返事をして、「なんですか」と聞いてくれた。優希がそれを言うと、「それだけでですか?」と霞がわからないという顔をした。

「だ、だい、じだよ。あの、いらいらするでしょ、わたし」
「別に」
「そ、そう思える、なら、霞くんは、い、いい人なんだよ」

優希がそうに違いないと頷く。霞はなおも怪訝な顔のまま、「優希さんってよくわかんないっすね」と言った。





「お疲れ様」みちるが出してくれたお茶を礼を言って受け取る。ペンやノートなど、必要なものをいくつか運び入れ、まだ荷物は全然ないが、とりあえずやっていける空間にはなった。

「ま、思ったよりなんとかなってるわね」
「そ、そうだね」

連携はまだまだだが、最低ラインである相手を邪魔しない戦闘はランク戦までに完成しそうだ。ほっとしてお茶を飲む。「あの」霞が優希に言った。

「ランク戦って、10月からでしたっけ」
「そ、そう、だよ」

ランク戦は5、9、1月に休みが入り、年間3シーズン行われる。今は9月だから、次に始まるのは10月だ。

「……霞、あんたもしかしてランク戦のデータ見てないんじゃ」
「……」
「あのねぇ……」

無言は肯定とはよく言ったもので、霞がふいっと視線を逸らした。「せ、せつめい、するよ」と優希が苦笑した。

「え、えと、ランク戦は、上位と、ちゅ、中位、下位に分かれて、そ、その中で戦うの。み、3つか、4つの隊が、ランダムに選ばれて、て、点を、取りながら戦います」
「点っていうのは、人のことね。相手の隊員を1人倒すと1ポイント。最後まで残った隊にはボーナス2ポイント」

なるほど、と霞が頷く。

「わかりやすくていいですね」
「だ、だいたい、1シーズンで、20試合あるから、えと、一回参加するだけで、すごい、レベルアップに、つ、繋がると思う」
「そうですか」
「あ、あの……その、件で、ち、ちょっと……」
「なに?」

みちるが振り返る。優希が、おずおずと手を挙げた。





「勝ちにいかない、ってこと?」みちるが驚いたように言った。優希は「え、あの、いや……」と自信を無くしたように下を見た。

優希が言ったのは、今期は上位入りは目指さない、というものだった。みちるがどうして?と驚いたまま言う。

「そりゃ、確かに難しいかもしれないけど……でもあんたと霞なら、いいとこまで行けるはずよ?」
「そ、そ、あの、ちがくて、」
「……まあ、聞きますよ。さっき褒められたとこなんで」
「なにがよ」
「よく聞く後輩だって」

「は?」霞の言葉にみちるが怪訝な顔をした。しかしみちるも隊長がわざわざ言ってきたことなので聞く気はあるらしく、むっとしながらも黙ることにした。

「こ、こん、かいは、上位入りは、しない、というか……ち、調整期間に、したい。あの、わたしも、か、かすみ、くんも。集団戦は、初めてだから。いっぱい、あの、見つかると思う。弱点も、課題も」
「だから、あの、やりたいこと、とかは、今期に、い、いっぱいやっときたい。試したいこととか、全部」
「か、かすみくん」
「はい」
「霞、くんも、いっぱい、自由にや、やってほしい。やりたい事、我慢、しないでほしい。ちゃ、ちゃんと聞いて、判断するから、わたし」
「だから、あの、勝ちには、あの、いかない、というか……勝てるなら、か、勝つけど。できれば、スキルアップを目指して、ほしい」

わたしたちは、と優希が続けた。

「た……隊員だから。ほんとに勝つの、は、ここの人じゃない。そ、その、その先を見てほしい」

それは、ずっと優希が思っていたことだった。ずっと、ずっと昔から。みんなの役に立ちたかった。ランク戦で上にあがることよりもずっと、誰かを守れるような人になりたかった。口にしながら、あらためて自分はそんな隊員でありたいと思った。

そ、そういう、こと、です、からして、あの……。言いたいことは終わったのか、優希がもごもごと口をすぼめる。みちるは言われた言葉を理解して、ぱちくりと瞬きを繰り返した。霞も霞で、優希を見たままだんまりだ。

「あ、あの……」優希が困ったように二人を伺うと、ようやくみちるが口を開いた。

「……すごい!!」

みちるに褒められ、今度は優希が驚いた。なかなか今まで優希が言い出せずにいたのは、勝たない、という選択肢に怒られると思っていたからだ。

「え、でもあの……みちるちゃん、が、言ったみたいに、勝ちにいかない、んだよ……?」
「今後に繋がるような行動をしろってことでしょ? なるほどねぇ、優希!いっぱい考えてるのね偉いわ!」

バシッと背中を叩かれ「うあっ」と優希が声をあげた。色々考えてたのねぇ、と満足そうに言うみちるに、「え、えと……あ、ありが、とう……?」と優希が礼を言う。褒められるとはまさか思っていなかったので驚いていると、霞と目が合った。

「……」

霞は少しだけ黙って、優希を見ていた。それから、「……初めて隊長っぽかったすよ」と口を開いた。

「え、えっ……ほ、ほんと……!?」

「はい」霞が頷くと、隣にいたみちるも笑顔で頷く。おどおどとしながらも、優希は少しずつ隊長になりつつあった。