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久野隊


「あ……あ、か、かしゅみくん」
「ああ」

ラウンジにて、優希はひとりで座っている霞を見つけた。食事を終えたのか、空いた皿がテーブルにある。

「えっと、あー……」
「……?」
「……隊長?」

霞が優希に言った。

「あ……ああ! い、いや、あの、す、好きに呼んで、いいいいよ」

みちるちゃんも、名前だし……優希の言葉に「はあ」と霞が返事をした。

「じゃあ……優希さん?」
「う、うん……」

「……」「……?」黙ってこちらを見続ける霞に、優希はぎこちない笑みを浮かべたまま、疑問気に待つ。疑問気なのは霞もで、だんだん首を傾げ始めた。

「……なんか用で声かけたんじゃないんですか?」
「えっ、い、いや、見かけたから……」
「そうすか」

ちゅーっと霞は手元にあったジュースを飲む。かなりマイペースなタイプだと言うのはわかっていたが、用が無いとわかった途端興味を失ったかのようにそっぽを向かれた。

「……か、……かす、みくん」

いまだに呼ぶことに慣れない優希だったが、勇気を振り絞りまたも声をかける。「はい」と霞が返した。

「と、と、とりがー、って、見た?」
「トリガー」
「お、おぷ、しょん」
「ああ」

霞は頷いてからまだです、と答えた。正隊員になってすぐのはずの霞はオプションを触ったことがないのでは……と親切心で声をかけたが、ビンゴだったようだ。

「せ、セットの仕方、とか……よかったら、あの……」
「……」
「あの……い、いっしょに……」
「……なによこの空気」

最後の踏ん切りがつかずあわあわしていたところを、よく聞いた声が割って入ってきた。「み、みちるちゃん……」と優希が名前を呼ぶ。

「なに? なんの話?」
「と、トリガーの、セット……」
「ああはい。その件ね、なら場所を変えましょう。中身外して説明したほうがわかりやすいし」
「そ、そ、そうだね。……あ、でも、どこに」
「作戦室」

みちるの言葉に、え、と優希が小さく言った。

「久野隊の作戦室、今日から使えるって」

にやりと笑ったみちるに、優希が息をのんだ。





「あ、あ。す、すごい……!!」

機械的な音で開いたその部屋は、備え付けのテーブルとパソコンとモニターだけ。新品な状態のその部屋は、まさに自分たちのために用意された部屋だった。感動した様子の優希に、みちるが「ここが今日から私たちの居場所になんのよ」とにししと笑った。

居場所。居場所かぁ……!優希がわあっと笑顔になる。

後ろをついてきた霞は作戦室の中をきょろりと見て、「ほんとになんもないな」とつぶやいた。

「ふふふ、でも優希。感動すんのは後よ。時間ないんだから」

みちるの言葉に、う、うん。と優希が気を引き締めるように頷いた。時間、とは、ランク戦までの時間だった。隊として申請できたし、他にもまだ隊服やらなんやらやるべきことはあるが、とりあえずランク戦に参加できる手筈は整った。これから少ない時間の中で、なんとかランク戦を戦っていけるようにしなければならない。

「か、かす、みくん」
「はい」
「トリガーのしゅ、しゅ、種類のせせ、説明をします」
「はい」
「えと、……ま、まずは……まずは……えと……ど、どれから……」
「……」
「ま、まずは……うん、と………」
「……あーもう!」

みちるがしびれを切らしたように言った。それから、「優希トリガー貸しなさい。あらかた訓練室で見せたほうが早いわ」と優希のトリガーをもらう。

「っとにもう、いい? トリガーだけじゃなくて、あんたら二人も慣れなきゃいけないんだからね?」
「ご、ごめん……」
「謝る前に、とにかく一刻も早く慣れなさい」
「ひゃい……」
「霞、トリガーのセットの仕方教えるわ。来て」
「はい」

みちるの言葉に、優希が項垂れる。作戦室もできたが、いまだ優希は隊長らしいことをしていない。みちるちゃんはすごいなぁ……霞にきびきびと教えるその姿に深く思った。





訓練室に入った優希は、霞のメイントリガーである弧月を手にした。

「こ、弧月の、おぷしょんの、旋空、です」
「せんくう」
「ろ、ログで見たり、とか」
「ログ見たことないんで」
「そ、そか……」

よく考えれば、C級の間からログを見ていたのは自分くらいだった気がする。普通はB級に上がってからなのだろう。

「じゃあ、あの、使ってみる、ね」

弧月を実践で使ったことはないが、研究のために使ったことは何度もある。トリオン体が斬れたらいけないので、霞を後ろに下がらせる。

「旋空弧月」

小さくつぶやき、鞘から一気に引き抜くと、刀身が弧を描いた。訓練室なので部屋が斬れることはないが、実際に当たれば建物ごとすっぱりと斬れてしまうトリガーだ。

「ど……どうかな」
「……すごいですけど、実践で使うかって言われると、微妙です」
「そ、そか……」

確かにこのトリガーは実際に動く人に当てるのは難しく、牽制や障害物の破壊に使われることが多い。それがすぐにわかるということは、やはり彼も実力者なのだなぁと優希は感じた。

「他も見ていいですか」
「い、いい、いいよ。もち、ろん」
「……触っても」
「いいよ!ぜ、ぜんぜん!」

優希がこくこくと何度も頷き、霞にトリガーを渡した。きょ、興味もってくれてる……!優希はわああと嬉しく思った。

「……これ、ほんとにランク戦までになんとかなるのかしら」

モニターの中で霞の質問にあわあわと答える優希を見て、みちるがつぶやいた。