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カスミ



「どど、ど、ど、どう、ぞ……」
「いいんすか?」
「い、いいいい、い、いいよ……」

おどおどとしながら、優希が買ってきたジュースを差し出した。あの後、悲鳴をあげて恐れおののいた顔をする優希に、このチャンスを逃してはならないとみちるがすぐに霞に座るように言った。ここはラウンジ。話をするにはうってつけの場所だ。

優希とみちるが並んで座っていたので、霞はその向かいに座った。と、とりあえず飲みものを……とおろおろとしながら優希がなにがいいか聞き、買ってきた。

「……ちょっと、優希自分の分はどうしたの」
「手、二個しかなかったから……」
「ならあんたと霞くんのを買ってきなさいよ……!」

隊員の分の飲み物だけを買ってきたパシリ体質の隊長にみちるはそう言ってダッシュで優希の分の飲み物を買ってきた。霞くんを逃がしてなるまいと超ダッシュで。

ふう、と息を吐く。これでようやく、話ができる。「え、えっと、霞くん?」とみちるが話を切り出した。

「はい」
「入りたいって言ってくれてありがとう。うちは大歓迎よ」
「……あ、う、うん!」

みちるに机の下で小突かれ、優希もうなずく。霞はどうも、と軽く会釈をした。霞隆一、15歳。一つ年下で、今期のおそらく新人王を取るであろう人物の一人。これを逃すのは絶対にまずい。

「それで、えっと……」
「あ、あの、あ、か、かすみ、くん」
「はい」
「な、なんでうちに、はい、ろうって……」

優希の質問に、霞が黙る。どくんどくんと自分の心臓の音が聞こえそうだった。「……久野さんって、」霞が口を開いた。

「は、はい!」
「確か、もともと隊組んでませんでしたよね」
「そ、そそ、そう、だね……」

霞の発言に、自分の弱点を突かれたような気がした。隊を組んでなかったことと、入隊理由に、いったいなんの関係があるのだろうか。

「おれも隊組みたくないなって思ってて。で、支部希望してたんすけど」
「……え?」
「でも支部って市民の窓口みたいな仕事が多いらしくて」
「えっ……え?」
「本部でソロもいいかなって思ったけど、よほどの事情がないと、混合隊に入れられるらしくて」

よほどの事情……優希はあらためて自分がよほどの事情の部類に入っていたのだなと「そ、そうなんだ……」と苦笑した。

「で、そんなに関わってこなさそうな人が隊組むって聞いたんで、ここに」
「そ、それって……」

優希が人見知りだから、来たってこと?みちるの言葉に、「まあ、そうなります」と霞が頷いた。

な、なによそれ……みちるは、目の前でのんきにジュースを飲む霞に腹が立った。そんな失礼な入隊理由があるもんか。優希は入隊してほしくて毎日資料を読んで、こんなに緊張しいなのに隊長になろうと頑張ってるのに。

「か、か……か、かすみくんは、なんで関わるの、やなの?」

優希が聞いた言葉に、みちるも優希を見た。霞は、しばらくがた黙ってから、口を開いた。

「面倒なんで」
「あ、あんたねぇ……!」

みちるは拳を握りしめた。腹立つ、腹立つ!ちょっとできるからって、何様のつもりなの。腹を立てるみちるをよそに、「……そっかぁ」優希が納得したように言った。

「そうだね、た、たいへん、だもんね」
「ちょっと……」
「だ、だだ、だいじょうぶ。大丈夫だよ。い、嫌じゃないよ、わたし」

怒ってくれてありがとう、と優希が笑った。そんなことを言われてしまったら、これ以上なにも言えないじゃないか。

「わ、わたしもね、に、苦手だ、から。その、あのね、大変だし、あの、苦しくなっちゃうこと、おおいから」

「だから、その……か、かすみくんの理由、ぜんぜん、悪いと思えなくて」と優希が顔を下げる。

「い、今まで、た、隊を組まなかったのも、その、同じような、理由、だから。き……嫌われたら、いやだし……面倒、だったのかも、わたしも……」

少し項垂れる優希を心配そうにみちるが見る。しかし「で、でも、ね、かすみくん!」と優希は顔をあげた。

「……はい」
「えと、かすみくんも、あの、たぶん、面倒よりも、楽しいが勝っちゃう日、来ると思う」

わたしは、そうだった、から。優希が遠慮がちに笑う。確かに人に会うと怖いし、嫌われたらって思うけど。それでもやっぱり、人に会わないより会った日のほうが、色んな感情が生まれて、よかったなぁって思えてしまうから。

「だ、だから……かすみくんには、そ、それまでうちに、いてほしい……かな……」

え、へへ……頭に手を当てて、優希が笑った。みちるはじろりと霞のほうを見て「……って、隊長は言ってくれてるけど?」と言う。霞は少し黙ったのち、「……じゃあそれで、よろしくお願いします」と頷いた。