村上と初対面と18歳色々
それは、まだ村上とボーダー内で顔を合わせたことのなかったときのこと。担任に呼び出されていた名前は職員室にいた。
「よろこべ名字。今回もお前がワースト1位だ」
「やったー!」
「本気で喜ぶんじゃない。いいか、先生は毎度言っているだろう。毎日勉強すればきちんと成績は上がる。お前は別に頭が悪いわけじゃない」
「……」
「……名字、今思っていることを言いなさい」
「先生ネクタイ新しいの買った? そのデザインかわいいね、プレゼント?」
「父の日? あ、もう終わったか。誕生日?」とまるで話を聞いていない自分の生徒に担任は「もういい……」と諦めの声で言った。
手元にあったノートを教室まで運ぶように言うと元気に返事をして生徒が職員室を後にする。「毎度大変ですね」と一連の流れを見ていた隣の席の教師が担任に声をかけた。
「悪い子じゃないんですけどね……」
はあ、と以前受け持っていた太刀川という生徒が脳裏をよぎって溜め息を吐いた。奴もたいがい問題児だった。現在の問題児が、過去の問題児の元隊員であることは担任が知ることは無かった。
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廊下をノートの束を抱えて歩く。ざわざわとした廊下で、荷物を運ぶ人間にはみな自然と道を開けた。
今回はやけにプリント類のおおい教科のノートだったため、普段よりはだいぶ重い。よっこいせ、とノートを胸を使い抱えなおした。
「手伝おうか?」
声に顔を上げると、ぱち、と一人の男子と目が合った。彼は名前の腕を占拠していたノートの束を指差していた。
「いいの?」
「ああ」
知らないどころか全く見たこともない生徒だった。男子は短くそう言って、ノートを全て受け取った。さすがに申し訳なくて「私も少し持たせて」と彼に言ったが、彼は彼で困った表情をした。
「女子に持たせるわけにはいかない」
きゅん。
「……お名前は」
「村上だ。村上鋼」
「名字名前です。君はいい人だね村上くん」
何故だか咄嗟にくん付けで呼んでしまい、しかしそれが妙にしっくりきた。こんなにいい人なのだ。敬称もつけなければ失礼である。
「名字……?」
村上が少しだけ首を傾げ、「ああ」と納得したような声をあげた。
「カゲが言ってた子か」
「カゲ? 影浦?」
「ああ。“碌な事しないから気を付けろ”って言われた」
なるほど。影浦は後で一発殴るとして、同学年にしてはまるで見たことのない生徒だったため「転入生?」と尋ねた。
「今学期からこっちに来たんだ」
「……スカウト組?」
時期的にそうかな、と思って聞くと案の定そうだったらしい。こんなにいい人が入隊か。ボーダーは安泰だなと思った。
その後こちらもボーダー隊員であることを説明し、色々な話をしながら教室を目指した。もっぱら話題は共通の話題であった影浦と穂刈のことで、「カゲにはめいっぱい優しくしてあげて」「穂刈は祭りのネタふるといっぱい喋るよ」とまだ彼らと見知って日の浅い村上に教えた。
「着いた着いたー。村上くんありがとうね?」
まだあまり人の帰ってきていない教室で礼を言う。「ああ」とまたもクールに村上が返事をした。
「名字」
「なに?」
自分の教室に戻るために扉を開けた村上が振り返る。
「次にまた運ぶときは言ってくれ、手伝うから」
きゅん。
「村上くん好き……」
「えっ?」
▽▼▽
「ってことがあったから」
「なんで名字ってあんな村上に懐いてるんだ?」と穂刈に聞かれた名前が初めて村上と会ったときのことを話すと、「チョロすぎるだろ」という評価がくだった。
「俺らも運んだことあるだろ、多分」
「ない。手伝わされたことはあれどお前らが手伝ってくれたことはない」
隣でだらっとした体制で話を聞いていた影浦に向かって言う。「暇だろ手伝え」と無理やりノートの束を半分渡されたのを思い出す。
「そもそも手伝いいらないだろ、お前」
「まあね? いやそういうことじゃない。君らにはジェントル度が足りない」
「なんだよジェントル度って」
「別名歌川度。いや村上くんは武士度?サムライ度?」
「どれでもいいわ」
「どうしたんだ?」
素っ気なく影浦が言い、ぐいーっと背伸びをして欠伸をした。本当にどうでもよさそうで名前は少しムカついたが、村上が帰って来たため機嫌はすぐに直った。
「あ、そうだ。見て見て村上くん」
「なんだ?」
ピーンと思いついた名前が村上に携帯を取り出して見せる。それを村上が覗き込み、固まった。
「柔道着の白が違和感ありまくりのカゲ」
「テメェいつ撮りやがった!!!」
先ほどまであくびをしてだらけきっていた影浦がガタンッ!と立ち上がった。
彼にはサイドエフェクトがあるため盗撮が出来るはずがない。「穂刈が似合いすぎて面白かったから写真撮ったら、後ろに面白いほど似合ってない奴がいた」と名前が説明する。偶然の産物なのでサイドエフェクトは反応しなかったらしい。ちなみに、選択体育のときの写真であった。
「普段真っ黒だから真っ白い服着てるのがすごい違和感あってつい」
「写真送ってくれ」
「了解した」
「今ここで抹消しろ。つーかさせる」
名前と影浦が取っ組み合いをはじめ、村上が「仲良いな」と笑う。穂刈はじっとしばらくその様子を見て、携帯を取り出した。
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「犬飼、なんか来た」
昼食を取っていた荒船が、携帯を取り出して同じく共に食べていた犬飼に見せる。それを見た犬飼がごほっと咳き込んで笑った。
「なんでそんなの飲んでるときに見せんの……っ」
「今しかねぇと思った」
器官に入ったのか苦しそうにげほげほしながらも、犬飼の表情は笑顔であった。送られてきた写真は影浦が名前に腕相撲で負けている図で、周りにはいつの間にか集まっていた当真がレフェリーを務め、北添が影浦の次に挑戦しようと並んでいた。
「……なんかそういうの見ると向こう楽しそうだなって思うよね」
落ち着いたらしい犬飼が言う。荒船は写真をもう一度見てから、「そうだな」と言って笑った。
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