そのまえ | ナノ
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三輪と下校する

「えー……じゃあここを、仁礼」
「え!? えー……と」
「……」
「……おい。三輪、三輪。ここなんだっけ?」
「……」
「仁礼、」
「えーと……」

仁礼が適当に答え、先生から「ちゃんと勉強しておけ」と注意を受ける。仁礼が誤魔化すように笑って、教えてくれなかった三輪を恨んだ。

いつもなら聞けばこっそり教えてくれるのだが、何故だか今日の奴は反応が薄い。というか、返事すら返して貰えなかった。

機嫌でも悪いのか?仁礼はそう思いながらも黒板に視線を戻した。

「……」

三輪は眠かった。機嫌が悪いとかでなく、それはもう眠かった。昨日米屋から「小テストの範囲どこかわすれた!」という電話とテスト内容に関する質問で睡眠時間を奪われた三輪はことさら眠かった。

しかもなんであいつはいちいち「そういや古寺がさ〜」とか「奈良坂も言ってたぜ?」とか関係ない話を挟んでくるんだ。と、三輪は昨日の電話内容についていまさらツッコミを入れていた。

それでも彼が米屋を蔑ろにできないのは、なんだかんだ頼って来た隊員を突き放せないからであった。

「というわけで、この国は〜〜」

昼食から少し時間のたったこの時間帯の眠さたるやいなや、学生ならばみんな知っていることだろう。ええい、倭国の成り立ちなんてどうでもいい寝させろ。三輪はまるで非のない日本史講師に心の中でキレた。

ちなみにこの時間帯、米屋のクラスは現国であった。三輪をこの状況に陥れた米屋はぐーすか眠りこけていた。

だがしかし、真面目であった三輪は先生が授業をしているのに眠るという選択肢はない。彼も米屋くらい図太ければ、ここまで悩むことはなかっただろうに。

キーンコーンカーンコーン。わかりやすいチャイムが鳴る。三輪はようやく気が抜けたが、次の授業のためまた気を張りなおすのだった。





「____起きて、」

まどろみの中を、優しく起こされる。若い女性の声が三輪を呼んだ。

「う……あと五分」

丸まりながらくぐもった声で三輪が言う。女性が「もー」と困ったように言った。

「そう言ったらずっと寝るでしょ?」
「ん……待ってよねえさん……」
「姉さん?」

姉さんであるはずの女性が聞き返す。え、と思いガタンッと勢いよく起きる。そこにいたのは自分の姉さんではなく。

「おはよう三輪くん」
「……………………………」
「……三輪くんなにしてるの?」
「お前を姉さんなどと口走ってしまった死んで姉さんに詫びなければ」
「早まるな!!」

絶望顔から一転、自らの首に手をかけた三輪を慌てて名前が止める。「はなせ!姉さんに申し訳ない!」「どんだけ私が嫌いなんだ君は!!」と寝起きのせいか三輪には珍しく阿呆な会話と行動を取った。名前が三輪の両腕を掴み、なんとかこの争いを沈める。

三輪が時刻を確認するともうHRから2時間近く過ぎ、そろそろ学校を閉鎖する時間が迫って来ていた。どうやらHRが終わってすぐに緊張が解けて眠ってしまったらしい。

「三輪くんが学校で寝てるの珍しいね?」

三輪が落ちついたのを確認して名前が言う。「なんかあった?」と先輩風を吹かせて聞かれ、三輪は「別に」とぶっきらぼうに答えた。

「あんたには関係ないだろ」
「あれか、米屋くんが小テストのことでも聞いてきたか」
「なんで知ってるんだ…………盗聴か?」
「三輪くん私に対して失礼すぎだろ」

迅に対しては無視をするためそうでもないが、三輪の名前に対しての言葉は常に辛辣であった。ある意味では当たりは迅より強いと言える。

「昨日米屋くんと話してる時に「やべっ明日テストだ!」って言ってたから」

勉強ができるとはいえ奈良坂は他校なので範囲を知っている筈もなく、三輪に聞くだろうと思ったと彼女は言った。

「……あんた、本当にあいつらとよくいるな」

昨日の電話の中でも何度か名前の話が出てきたのを思い出す。「先輩と駄菓子屋行ったら5連続で当たりが出たんだけど。先輩もしかして福の神かなんかなんじゃねーの?」と聞いてもいないのに彼女の話を聞かされた。

「そうだね。仲良くしてもらってるよ」
「陽介はまだいいが、奈良坂や古寺にはあまり近付くな。お前みたいになられたら困る」
「三輪くん一回でいいから顔面にグーパンしていい? ねえこれいい加減許されるよね?」

不毛な会話を続け、下校時刻のチャイムが鳴る。「着いて来るな」と三輪が言い「いや私も本部行くから」と名前が返す。三輪は夜に任務が入っているため本部にはいかねばならない。そして当然名前の自宅は本部だった。

結果として二人は共に帰る___ということにはならず、同じ道を別々で帰るというなんともややこしい帰り方をしていた。

「……ねえ三輪くん。さすがにこれは無理があると思う」
「なんだ。話しかけるな」
「同じ道を通ってる知り合いって時点でこれはもう一緒に帰ってるよ。大人しく並ぼうよ」
「断る」

細い道だと言うのに三輪は名前からギリギリまで離れて歩いていた。いじっぱりだなと名前は思った。

「三輪くん」
「……なんだ」

共に帰らないと言っているわりに話しかければ返事はする。なんだかんだと突き放しきれないのが彼の悪いところであり、良いところでもあった。

「眠いときはね、昼休みに15分くらい目を閉じてゆっくりしたらいいって、前ニュースで言ってたよ」
「……」
「嵐山隊が出てる番組でも言ってたから、これはきっと効果あるね」
「……それは多分、俺じゃなくて米屋や出水に言ったほうがいいぞ」

三輪はたまたま今日睡眠が足りなかっただけで、授業中寝ているのはどちらかと言えばあの二人だ。出水は寝ても成績がいいが、米屋は少しでも起きて勉強したほうがいいだろう。

「そうかもね」と少し後方で名前が笑う声がした。その後も「嵐山隊の番組とか出たいね」「あんたが出たらボーダーの信用が落ちる」「ぜってー出てやるからな。三輪くんの話してやる」「やめろ」と、少々喧嘩も交えつつも会話が途切れることはなかった。




おまけ

「あ、そうだ三輪くん」

本部に着いた三輪と名前はトリガーを使い入室する。三輪が「なんだ?」と聞くと、にやーっと名前が笑った。

「三輪くんも“あと五分”とか甘えたこと言うんだね?」
「……っ!!!」

にしししと笑ってからぴゅーっ!と逃げていく名前に三輪が「名字!!」と怒鳴る。へらへらしながらそれに名前は「今夜はちゃんと寝なよー」と走りながら返した。

それを目撃した隊員は、名前さんが嫌われるのって自業自得だよなぁとしみじみ思うのであった。

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