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二宮と加古炒飯

「太刀川さん大変」
「どうした」
「人が倒れてる」

作戦室に入って来て真っ先にそう言った名前に太刀川は「何言ってんだこいつ」という目で名前を見た。「いやマジだって。これマジなやつ」と太刀川が信じていないとわかった名前はぐいぐいと作戦室から引っ張り出した。

最初こそ半信半疑だった太刀川だったが、その倒れている人物を見て叫んだ。

「つ、堤!!」
「つつみ?」

倒れている自分の同級生に「どれだ! 今度は何炒飯だ!!」と言いながら太刀川が駆け寄る。

わけの分からない質問をする太刀川と、依然意識が戻らない堤。名前は「とりあえず作戦室運びません?」と提案した。







「いや、面目ない」

意識を取り戻した堤にお茶を出すと「ありがとう」と菩薩のような優しいスマイルを向けられた。いい人ではないかと名前は堤に好印象を覚えた。

「いやお前は悪くない。悪いのは加古の炒飯だ」
「チャーハン? チャーハン食べたんですか?」
「ああ……」

「チョコミント炒飯をちょっと……」という耳を疑う料理名に名前が太刀川を見ると「聞き間違いじゃないぞ」と言われた。隊長が言うからには本当なのだろう。本当なほうが恐ろしいが。

「なんで廊下で倒れてたんだ」「今回は遅効性で来たらしい」と、まるで毒物を扱っているかのような会話だなぁと2人の会話を聞いていた。

「いいか名前。何があっても加古の料理は口にするな。死ぬぞ」

肩をがしっと掴まれ注意を受ける。堤もこくこくとうなずき、加古という人物の炒飯の威力を伝えようとした。

「いや加古さんって誰か知らないんですけど」

だが名前からすれば気を付けろと言われても、その人物が誰なのかがわからないと対処に困る。話し口からして太刀川もその炒飯を食べたことがあるらしい。

「見た目に騙されるな」「あいつの炒飯は黒トリガーをしのぐ最終兵器」「やばそうになったら二宮に押し付けろ」という太刀川からのアドバイスを頂いたが、その加古さんに会うまでアドバイスを使う機会はなさそうだ。名前は「はーい」と適当に返事をした。


▽▼▽


後日。本部にて二宮を見つけた名前は「どの声掛けをすると一番二宮が驚くか」を考えながらこっそり後ろを付けて歩いていた。

下手に脅かそうものならば「元気があるなら模擬戦するぞ」と返り討ちに遭うだろう、と色々なパターンを予想しつつ歩く。そもそもいたずらなど仕掛けなければいいのだが、常日頃から二宮に一矢報いたい名前は無駄な方向に頭を使っていた。

一方で二宮は「何か後ろ付けられてるな。名字か」とすでにわかっていたため多分どう話しかけられても驚くことはなかった。

「……ん?」

考えながら後ろを着いて行っていると、二宮がとある女性に呼び止められていた。非常にきれいな女性で、名前は「二宮さん顔だけはイケメンだから彼女かなぁ」と失礼なことを考えながらじっと女性を見た。

「あら、どうしたの?」

ふとこちらを見た女性と目が合い、声を掛けられてどきりとした。二宮も名前を見て、やっぱりかと溜め息を吐いた。

「二宮さんどうしたんですか? 彼女さんですか?」
「ふざけるな」

「ふふ、違うわよ」と綺麗な女性が綺麗に微笑んだ。そして、初めましてとこれまたご丁寧に自己紹介までしてくれた。

「加古望よ。あなたは確か、太刀川くんのところの子よね?」
「はい。名字名前って言いま……」
「どうかした?」

“加古さん”とは、それはまさか、先日聞いたあの加古さんじゃなかろうか。必死に説明を受けたあの黒トリガーをしのぐ炒飯の使い手加古さんでは。

「二宮くんの弟子なんですってね。射手なら私のところにくればよかったのに」
「い、いやあ……まあ二宮さんも割とすごい人なんで」
「……どういう意味だ?」

「いやー尊敬してるって意味ですよー」と名前が適当に笑う。よく考えれば、現在彼女は炒飯を持っていない。そうビビることもないだろう。

……いや、待てよ?名前は加古と二宮がいるというこの状況を再確認した。

さすがの二宮も、チョコミント炒飯なんて明らかにゲテモノ料理は食べられないんじゃないか?おやおや?と名前は心の中で悪い笑みを浮かべた。

「……加古さんって、確か料理されるんですよね?」
「ええそうよ」

名前の言葉に、二宮が「なに言ってるんだこいつ」という目で勢いよく振り返った。言葉は同じなのに太刀川と大きく違う点は、「なにを言ってくれてるんだこいつ」という、やってくれたな感が滲んでいることである。

「どういうの作るのか興味あるなー。私も料理は好きなんで、今度一緒に作ってみませんか?」
「あら、いいわね」
「どうせなら誰かに……あ、そうだ!」

「二宮さん食べに来てくださいよ!」多分、今まで会った中で一番の笑顔が二宮に向けられた。きらっきらの、広報活動時の嵐山ばりの輝きである。そんな極上スマイルを向けられていた二宮は親の仇のような顔で名前を睨んだ。

「そうね。誰かに食べて貰ったほうが嬉しいもの」

水面下で二人がバチバチと心の中で睨み合っている中、加古だけは純粋に料理への張り合いとして客人を招きたがっていた。

「……」

二宮はしばらく名前を睨んだ後、ふと何かを思い出したように視線を逸らした。

「……ああ、そうだ加古。お前、今日も作ったって言ってたよな」

主語の無い突然の話題転換に、名前が首を傾げた。だが加古には話が通じているらしく、「ええ。堤くんに来てもらう予定だけど」となおも美しい笑顔で言った。

「堤さん?」
「こいつも連れて行ってやれ。何せ、“興味がある”らしいからな」
「え、」

作った、堤、という単語から、名前はその作られたという物を想像しまさか、と顔が青ざめた。加古は「じゃあ、用意しておくわね」と嬉しそうに手を叩いた。

「い、いや、あの。今日は、」
「よかったな名字。今日は確か、防衛任務も無かったしな」
「え、あ、急にお邪魔したら堤さんの分が」
「大丈夫よ。たくさん作ったから」

にこやかに加古が笑う。名前はひくりと珍しくいつものへらっとした笑顔がひきつった。

一方で、視界の上らへんにいた二宮はこちらを見下ろして珍しく薄く笑っていた。その表情が「ざまぁ」と言っているようで、名前は今日も師匠への完全敗北を味わうのだった。


▽▼▽


「あれ〜どうしたの出水くん、なに背負ってるの?」
「なんか先輩が廊下で倒れてた」
「だから食うなって言ったのに……」

後日、太刀川隊作戦室の前で倒れる名前を、今度は出水が救出したらしい。


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