影浦と迷子
「んぎゃあああ」
「こちら名前、ボーダー隊員が児童を泣かせています。至急警察をお願いします」
「ふざけんな」
何故だか学校の下校途中に泣いている子供と影浦に遭遇した。真っ先にたいへん、警察を。と思い携帯を取り出したが連絡を取る前に影浦に奪われてしまった。
「どーしたんだいカゲ。どういう状況なの、これ」
「……俺が聞きてぇよ」
何でも道中でウロウロと不審な子供がおり、道を通るに通れず「どけよ」という野蛮極まりない声の掛け方をすると泣かれた。ということらしい。
「そんな凶悪面でどけなんて言われたら泣くに決まってるじゃないっすか」
「どういう意味だテメェ」
「そのまんまの意味だよ。ほら、どうしたのぼく?」
子供を泣かせたという大罪を犯した影浦に適当に返事を返し、優し気に聞く。泣いていた男の子は女の人の登場に安心したのかぎゅうっと抱き着いて来た。
「おお、っと」
急に抱き着かれ驚いて一瞬よろける。肩を影浦に支えられ、「ありがと」と言うと「趣味の悪い餓鬼だな」と言われた。どういう意味だこの野郎と名前が軽く睨んだ。
「おねーさんおかあさんどこ……?」
わかりやすい言葉をいい、迷子だとすぐにわかる。お母さんとはぐれちゃったの?と聞くと、こくんと頷かれる。
「そっか。じゃあおねーさんたちと一緒に探そうね」
「あ? 俺は帰る」
「なにを言うんだいおにーさん」
「誰がおにーさんだ」
影浦の襟首をがしっと掴む。「面倒臭い」と顔にでかでかと書いてある影浦に「泣かせたんだから責任とろうや」と説得した。
▽▼▽
「お母さんの特徴は?」
「とくちょー?」
「着てる服の色とかわかるかな?」
「あお!」
「うん、ありがとう。髪は長い? おねーさんと同じくらい?」
「ううん。おにーさんくらい」
「やったねおにーさん。お母さんとおそろじゃん」
「死ね」
「口悪いなお前」
なんだかんだと付き合わされてしまったためか影浦の機嫌は悪かった。というか、自宅に来るはめになったため機嫌が悪かった。
あの後「ぐぅ〜……」と鳴った男の子のお腹により、一旦食事を取ろうということになった。その時真っ先に思いついたのが影浦の自宅であるお好み焼き屋だったのだ。
「お名前はなんていうの?」
「しょー」
「しょーくんか、いい名前だね。私は名前おねーさん。こっちがまーくんだよ」
「お前さっきからおちょくってんだろ」
「そんなことは」
会話を続けながらもぐもぐとお好み焼きを食す。影浦が焼いてくれたお好み焼きは大変美味である。
「まーくんもボーダーなの?」
「…………ああ」
「……っく」
「やっぱりおちょくってんだろテメェ」
まーくんと言われ返事をした影浦に名前が声を殺して笑う。さすがに子供には怒れないらしく、大声でまた泣かれてはいけないため名前にも怒鳴らなかった。
「じゃあ強いんだね!」
「まーくんは強いよー。おねーさんも強いよー」
「すごい!」と目を輝かせるしょーくんはきっと嵐山隊等でボーダーを知ってくれているんだろう。彼らのおかげで、ボーダーは子供たちにとって町を守るヒーローという扱いだった。
「しょーくんは大きくなったらボーダーに入るの?」
「うん!」
「そっか。じゃあおねーさんからアドバイス。勉強はしとかないと大変だぞ」
「……お前が言うと重みがちげぇな」
「だろう」
勉強が原因で何度叱られ、また何度任務に行かしてもらえなくなりそうだったことか。しょーくんは理由はわからなかったようだが「うん!」と元気に答えた。
その時ガラガラと店の扉が開き、そこには村上と穂刈と、女の人が立っていた。
「……っ翔!」
「おかあさん!」
わーいとお母さんに近付いたしょーくんをお母さんが抱きしめる。「どこ行ってたの!」と叱りながらも、お母さんは嬉しそうだった。
「無事に会えたか。よかったよかった」
そう言って笑った名前の顔を影浦は横目に見た。彼女の顔は、母に出会えた迷子よりも嬉しそうに見えた。お人好し、影浦は心の中でそう思った。
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「手伝わせてごめんね」
翔くんと写真を撮って、それを穂刈たちにお母さんの特徴と共に送り同時進行でお母さんを探してもらっていた。一番いそうな交番をしらみつぶしに探していき、見つけることができたようだ。
「いや、見つかってよかった」
村上が言い、穂刈もそれに頷く。カゲはあんな面倒そうだったのに……と名前がほろりとした。そしてそれに気付いたのか影浦がうぜえという顔をした。
「てことで、ここは私のおごりだ。存分に食べたまえ」
翔くんが帰ったあと、夕飯時だったためこのままここで食事をすることになった。村上が「自分で払うから大丈夫だ」と言い、それに名前が「いいよ。もうすぐ誕生日じゃん」と返す。穂刈は言われた瞬間「豚キムチとねぎと広島追加で」と注文した。お前は遠慮をしろ。
「でもなんでカゲと名字が迷子を連れてたんだ?」
名字はわかるけど、と影浦を見た村上に「まーくんが泣かした」と名前が告げ口すると、影浦が「こいつに付き合わされた」と言いながら名前を蹴った。結局二人が何故迷子を連れていたのか、穂刈と村上にはわからなかった。
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