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荒船の誕生日と影浦

「知らんもう荒船なんぞ知らん」
「寝転ぶな邪魔だ」
「蹴らないでよカゲ〜傷心なんだよ〜」

影浦に足蹴にされた名前がおいおいと泣く。荒船のもとから直接影浦隊の作戦室に来て名前はソファに転がっていた。

蹴るなと言われた影浦は今度は軽く名前の背中に座り、「重い」とくぐもった声でトリオン体なので重いはずのない名前が言った。「どうした」と短く影浦が聞く。そこで聞くのは優しいと思うが、人の上に座ったままではそれも台無しである。

なんでも名前が言うには、荒船に誕生日プレゼントを渡したら「なんの嫌がらせだ」と言われてしまったらしい。それで、「荒船なんか帽子で禿げてろ」と言い残し影浦のところに来た、と。

「……珍しいな」

話を聞いた影浦に「そうでもない」と名前が言った。荒船は普段から嫌な野郎だと名前が主張したが、それはお前が荒船に嫌がらせするからだと影浦に返されてしまった。

それにしても、なんだかんだと名前の勉強の面倒まで見ている荒船が、彼女のプレゼントを嫌がるだろうか。「まあもらっといてやるよ」なんて憎まれ口を叩いて上機嫌になるのが影浦には目に見えた。

「何渡したんだ」
「わんこカレンダー」
「……は?」
「わんこカレンダー」

二回言った名前に何故そのチョイスをしたのかと聞くと「当真が荒船は犬好きだって言ってた」と説明される。「ちがうの?」と名前は少しだけ顔を上げて影浦を見た。なるほど、元凶はなんちゃってリーゼント野郎か。

「あいつ、確か犬嫌いだったはずだぞ」
「嘘だ。当真が私に嘘を吐くはずが」
「お前らいっつも嘘吐きあってんだろ」

「影浦、根付さんにアッパーかましておやじ狩りしたってマジ?」と当真に聞かれたのは記憶に新しい。嘘と本当を絡めながらのたちの悪い嘘を彼らはしょっちゅうつきあっているらしい。まあそれだけ仲がいいんだろうが、そのためこういったトラブルが度々起こるのは正直勘弁してほしい。

「知らなかったんなら許してもらえんだろ。さっさと行って謝って来いめんどくせぇ」
「何故プレゼントをあげて謝らないといけないんだ」
「お前らの自業自得だろうが馬鹿が」

座った状態でぐいぐいと名前の背中を蹴る。「いいよもう荒船なんて……」と名前はすっかり不機嫌状態であった。

「喜ぶと思ったのにさ……嫌がらせってなんだよそんなのしたことないだろ……」
「あるだろ何言ってんだ」

今までの出来事を棚に上げてどの口が言っているんだ。先日の荒船AV事件という同じ男なら非常に心を痛める事件の犯人が何を言っているんだと影浦が叱ると「あれは荒船が私のプリン食べたからだから」と反論してきた。罪重すぎるだろ。

「なんかもうつらい。鈴鳴で癒されないとやってられない」
「こんな面倒なの来たら鋼が困るわボケ」
「つらいのにカゲに椅子にされてるのはなんでなの……」

「つら……今ちゃんのご飯が食べたい…」「あ、でもレイジさんのオムライスも食べたい…」一人ぶつぶつと愚痴をこぼす名前に影浦は溜め息を吐いた。途中から愚痴ではなく夕食の希望だったが。

荒船も、少し考えればいくらこの馬鹿でも誕生日に嫌がらせをしてくるなんて思わないだろうに。いや、普段が普段だからそう思っても仕方ないか。影浦は名前の上でそう思った。

「……なにしてんの」

上でごそごそと動き始めた影浦に名前が突っ伏しながら聞く。「うるせぇ」と返され、「そうか、うるさいか……」と名前はまたもへこんだ。







「……おい。起きろ」

影浦の下でソファと顔を引っ付けていた名前の頭上から、聞き覚えのある声が降って来た。

「なんだよ帽子野郎」

顔を上げずとも誰だか判断できたのか、名前がそう返す。帽子野郎は「ひとまずカゲはそこをどけ」と言い、名前の上から重みが無くなった。

「あー……悪かった」
「……別に謝ってほしいわけじゃないし」

「犬じゃなければ何がよかったんだよボケ」と口悪く名前が言った。

今回名前は、本当に悪気があったわけではなかった。普段世話になっている荒船に、たまにはいい事でもしようかと何が好きなのかも調査してプレゼントを用意したのだ。聞いた人選が間違っていただけで。

荒船は少し考えてから、「犬以外なら別になんでもよかった」と言った。ピンポイントで犬が駄目だっただけで、荒船は別に何がもらえても嬉しかったのだ。

ぶっちゃけた話をすれば、荒船は犬カレンダーも「なんだこれ嫌がらせかよ」と言いながらも受け取るつもりだったのだ。名前が持って帰ってしまったためそれは叶わなかったが。

「……じゃあカゲ」
「あ?」

もう完全に自分は関係ないだろうと漫画を読んでいた影浦がガラ悪く聞く。荒船も「カゲ?」と思いながら聞いていた。

「カゲの店でお好み焼きおごってやるから、みんな呼ぼう」

なおも顔を上げないまま名前が言った。みんな、というのはきっと自分たちの同級生のことだった。

「おいちょっと待てなんで俺ん家だ」
「実はもう呼んでる」

焦る影浦を無視し、寝転んだ状態で名前がすっと携帯を掲げた。同級生のグループトークで『荒船誕生日だからお好み焼きパーティーするぞ』『了解』『了解』『カゲの家だよな』という会話内容が表示されていた。

「……お誕生日おめでとうございます」

ようやく顔を上げて、名前が荒船に言った。先ほどはプレゼントを渡して奪い取っただけで、おめでとうの言葉は言えていなかった。

「……おう」

荒船がそう言って小さく笑う。それを見て、ようやくぶすくれていた名前も嬉しそうにへらっと笑った。


「おいこれ犬飼も来るじゃねーか却下だ却下」


名前の携帯を見て言った影浦の意見は採用されず、その日はみんなで仲良くお好み焼きパーティーをした。





おまけ

「おい荒船。通知来てるぞ、携帯」

端末のランプがちかちかとしていることに穂刈が気付き言う。荒船が「ああ」と言い端末を開いた。その声音が少しだけいつもより元気がなさそうで、穂刈は何かあったか?と思った。

「……穂刈」
「どうした」
「帽子って禿げると思うか」
「……さあ?」

変な事を言いながら荒船がロックを開く。影浦から『馬鹿が死んでる』という文と共に送られてきた写真があった。「寝てるのか? それ」と覗き込んで穂刈が言った。

「なんだこれ」

そこにはおそらく影浦隊の作戦室であろう場所で突っ伏している名前の姿があり、なにしてるんだ?と穂刈も荒船も首を傾げるばかりだ。そこに、ぴこんとまた通知が入った。

『お前が喜ぶと思ったんだとよ』

次いで送られてきた文に、少しだけ荒船が固まった。先ほどの荒船とのやり取りを知らない穂刈が首を傾げたが、また何かやったんだなとは理解できた。

『へこんでてめんどくせーからさっさと回収しに来い』

言い方は荒っぽいが、それは早く慰めに来いという意味で影浦なりの気遣いだった。

「……ほんとにめんどくせぇなあいつ」と小さく呟いて、荒船が部屋を出ていった。向かう先はわかっており、穂刈は「いってらっしゃい」と無表情のまま言った。

「ん?」

ピコン。今度は自分の携帯が鳴り、穂刈が開く。

『荒船誕生日だからお好み焼きパーティーするぞ』

名前の一言に次々と『了解』の言葉が増えていく。なんだかんだ言って、あいつらすごく仲いいよな。そう思いながら、『カゲの家だよな』と穂刈が確認のメッセージを入れた。


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