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二宮の弟子とサンタさん

「私前から思ってたんですけど」

それは、名前の言葉から始まった。

「なんだ」
「町中にサンタさんの真似してる人っているじゃないですか。あれってサンタさん本人が見たらどう思うんですかね」
「は?」

何を言っているんだ、という目で二宮が名前を見る。ラウンジで二宮を見かけた名前はご飯食べましょう、と食堂に連れてきていた。その食堂でついていたニュースが、街のクリスマスシーズンの様子を流していたのだ。

「サンタさんを利用して商売してるわけじゃないですか。やっぱりサンタさんは嫌なんじゃないですか?」
「……何言ってるんだ。サンタなんていないだろう」

こいつはまたふざけているのか、と二宮が呆れながらも返事を返すが、その反応は自分が予想しているのとは全く違うものだった。

「え?」

そう言って二宮を見た名前の目は、とても純粋なものだった。


▽▼▽


「そう落ち込むなって二宮」
「落ち込んでいない」
「今どきサンタ信じてる高校生なんて絶滅危惧種なんだから、気にすんなって」
「気にしてないと言ってるだろ馬鹿川」
「馬鹿川!?」

深刻な問題が起きた、と言わんばかりにシリアス顔の二宮を太刀川が励ますが逆効果だった。

あの時名前は、ふざけてなどいなかった。ただ純粋に、まるでサンタさんを信じる小学生のように聞いただけだった。

名前は小学生のときから日本の文化に触れておらず、サンタが自分の両親がやってくれていることだと知らないままに世界を離れてしまっていたのだ。

「にしても、あいつ意外とメルヘンなとこがあるというか、子供っぽいっつーか……」

まさか二宮も名前がサンタを信じての発言とは思わず、思いっきり現実を突き付けてしまった。普段ならそんなに気にもしないのだが、それを聞いたときの名前の絶望顔が頭から離れないのが問題だった。





「東さん」
「なんだ?」
「サンタさんっていないんですか」

やけに深刻そうな顔で聞かれた質問に東は一瞬固まった。どういうことかと思ったが、名前の顔は真剣そのものだった。

ちなみに同時刻に二宮が同じような深刻な顔をしていたことは、師弟ともども知ることは無い。

「…………いるぞ」
「本当ですか?」

何となく察したのか優しい東は子供の夢を守った。しかし名前はまだ疑っているようだった。

「なんでそう思うんだ?」
「二宮さんが、サンタなんていないって……」

「二宮……」と東が乾いた笑いを張り付かせた。自分の元部下はまっすぐに事実しか言わないため、確かに言いそうだ。

「二宮さん性格は悪いですけど嘘はつかない人なんで、もしかしたら本当なんじゃないかと思って……性格は悪いですけど」
(二回言ったな)

弟子に性格を貶されている二宮に苦笑しつつ、東は「そうだなぁ……」と夢見る子供に優しく説いた。






12月25日。高校は先日から冬休みなため、朝から名前は本部にいた。パタパタと走る姿は、誰かを探しているように見えた。

「二宮さん!」

目当ての人間を見つけたのか、名前は二宮の下へ走って行った。二宮もまた名前を見て、立ち止まる。

「サンタさん、いましたよ!」

はあ、と走って来ていた名残か息が吐かれる。手に持っている綺麗にラッピングされたそれを二宮に見せつけた。

「そうか」

掲げられたプレゼントを見て二宮が言う。そのプレゼントは見覚えしかなかったが、顔には出さなかった。

東から名前にプレゼントを渡してやってほしいと言われたときは、何故彼にまで話が広まっているのだと思った。しかし東に言われた以上、そしてもとはと言えば自分の発言のせいという手前、断ることはできなかった。

しかし自分が彼女の部屋の前にプレゼントを置いたとなると今度は別の噂が立ちかねないため、置くのは東にお願いした。

「……二宮さんは今年ももらえなかったんですか?」

名前が心配そうに聞く。「サンタがいない」ではなく「もらえない」ことになっているのか。複雑に思いながらも「ああ」と答えると今度は別の包みを渡された。

「はい」
「……なんだこれは」
「サンタさんがくれないから、私からです」

名前の言葉に二宮が驚く。しかし普段から表情筋を使っていないせいか、彼のポーカーフェイスが崩れることはなかったため名前にはバレなかった。

「東さんから二宮さんはもらえてないんじゃないかって言われて思ったんですけど、やっぱり二宮さんそこまで悪い人じゃないんでもらえないのは変ですよ。一応まだ未成年ですし」
「……一応とはなんだ」
「やだなぁ、大人っぽいってことですよ」

名前が笑って、二宮に手渡す。それは先ほどまで名前が持っていたこともあり、ほんのり温かかった。

「なに入ってるんですかね?」
「……知るか」
「おお! お風呂セットだ。氷見ちゃん好きそう」
「……」

自分の隊のオペレーターに聞いた二宮は一瞬だけ心臓をぎくりとさせ、しかしそれもポーカーすぎるフェイスでばれることはなかった。


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