かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 少年Aの戯言

空閑が玉狛に来てからすぐのこと。元々玉狛に入り浸っていた名前は合法的に玉狛に入り浸るようになった。

「おらおらぁ! 立ち上がらんかい若者よ!!」

「は、はい!!」

それは、戦闘訓練に付き合うことだった。彼らはまだ新米だが、A級トップチームを目指すというのなら強い人間と戦うことこそ一番の近道だと烏丸に説明し、三雲の戦闘に付き合うことにしたのだ。

本当は小南もレイジも烏丸も弟子にかかりっきりで暇だったというのが概ねの理由だったが、まあ一応嘘ではないので自分の中でよしとした。迅は姿が見えないので、今日も楽しく暗躍だろう。

「それにしても、何で修なんすか?」

「雨取ちゃんはまず止まった的に当てる訓練だし、空閑くんは小南ちゃん譲りそうにないし、一番レベルアップが必要そうな子だったし」

「す、すみません…………」

少しへこんだっぽい三雲だが、結構冗談ではない。現時点でこれだと、だいぶ工夫した戦闘をしないと生き残るのはなかなか厳しいだろう。

「まあまあ、このS級名前ちゃんが付き合ってやってんのよ? B級中間くらいの戦闘力には育ててあげるから」

「目標低いっすね」

「ああん? B級中間って言ったら荒船とか諏訪さんとこくらいよ? 荒船とか超人生ゲーム強いかんね? いつもしかえしマスで私狙う荒船と同じとか三雲くん嫌われそう」

「それ、先輩が荒船さんのDVDの中身AVに入れ替えるからじゃないすか?」

「あの後すんごい怒られてさぁ……荒船がAVマニアって噂が流れたのはあいつが気付かないで人に貸したからじゃんかよう」

「先輩は荒船さんに何の恨みがあるんすか」

「あのう……」と三雲が困惑していたので会話を中断して銃型を取り出す。三雲に経験を積ませるため、様々はタイプのトリガーをローテーションで使用している。狙撃手ではないため狙撃を避ける訓練はできないが、それでもいい訓練にはなるだろう。

「三雲くんは射手で行きたいんだってね」

「はい」

「結構大変だよ射手は。練習も必要な上にセンスが必要だから」

元々射手でなかった名前は自分が最初に教わったときのことを思い出し苦笑する。あの時は辛かった……と過去の自分を褒めてやりたい気持ちになる。

「でも……頑張りたいんです」

「ん、そりゃ結構。とはいえ三雲くんの戦い方と射撃は相性が良いと思うし、ある程度のところまではいけると思う」

ある程度、というところに三雲はA級との線引きをされた気がしてぐ、と黙った。名前は特に嫌味が言いたかったわけではないが、結果としては三雲を貶していた。

三雲が黙ったことに気付いた名前はにやりと笑う。それに対し、三雲はどうしたんだろうと頭上に疑問符を浮かべた。

「その“ある程度”は、三雲くんが一人で、こんな何にもないところで戦うとしたらね。戦況、そして一緒にいる隊員の戦力でパワーバランスなんてすぐひっくり返るんだから、諦めないで練習しなさいな」

「……!」

励まされたことに気付いた三雲は「ありがとうございます!」とお礼を言った。名前は3つほどしか変わらない少年に対し「若いなぁ」というババ臭い感想を思った。

▽▼▽


「……とはいえ」

名前はまた目の前で供給機関が破壊された三雲に対し引きつった笑みを浮かべた。

現時点での三雲の戦闘力は名前のうん10分の1というほどに弱かった。名前は今では射手に転向しているため現役の万能手ではないが、それでも三雲は名前にフルボッコされていた。

「つ、次、お願いします……」

やる気はあるんだけどな、と名前が三雲を見る。戦い慣れていないということと、体を動かす事自体が下手であるというダブルパンチにどうしようかと頭を悩ました。

「あからさまな陽動に乗っちゃ駄目だよ三雲くん。相手の呼吸を読んで、違和感のある隙には食いつかない。君はトリオンが少ないから長期戦に持ち込むのは厳しいかもしれないけれど、それなら早めに相手を解析する癖をつけたほうがいい」

名前は先ほどわざと隙を見せて三雲を誘った。戦闘ではよくある手だが、場数を踏んでいない三雲にはわざとと本当の隙の違いがわかっていなかった。

「解析する……癖?」

癖、というところがわからなかったのか首を傾げる三雲に指をぴんと立て、恩着せがましく「わかりやすく教えてさしあげよう」と彼に向き直った。

「例えば、普段から相手の癖を分析する。些細な事でもいい。あいついつもカレー食ってんなとか、あいつじゃんけんで最初にパー出すことが多いなとか。とにかく、日常から“気を付ける”ことが重要だ」

「いつも周囲に気を配って、早急に相手の弱点を探る癖をつけるの。そうすればいつ誰が敵になっても、安心して戦えるでしょう?」

先輩風を吹かせながら彼に「ね?」と笑いかけると、彼は自信なさげに「でも」と斜め下に視線をやった。

「それって、少し怖いですよね……」

「_____え?」

思ってもみなかった答えに、本気できょとんと目を丸くした。怖いって、相手の弱点も知らずに戦うことが? だからこそ、弱点を探る癖をつけておくんだろう。相手の弱点を見つけて、そこを狙って生き延びる。当然の戦略だ。

全くわからないという名前の顔に、今度は三雲が困ったのかしどろもどろになりながら説明した。

「えっと……それって、普段から周りが敵になることを前提としてるみたい、で……」

言われて、なるほどなと思った。

確かに、これじゃあ周りの人達といつ戦ってもいいようにしていると言っているようなものじゃないか。


ああ、なるほどなあ。


「だって、三雲くんはA級に上がるんでしょ? ランク戦で周りのライバルと戦わなきゃいけないんだから。ね?」

「そ、そうですよね! 怖いなんて言ってられないですよね」

「そうそう。その意気で三雲くん、もう1セットしようか」

「はい!」


ああ、なるほどなあ。


(少年Aの戯言 ひどく納得できてしまった)

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