かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 世界は平和なのか

三雲は迅と言われていた男と共に会議室を後にした。長い廊下を歩く音にさえ緊張する。横を歩く彼は自分をかつて助けてくれた人物だった。

自分が犯した隊務規定に関しての話を終え、今は空閑という自らを近界民と名乗る少年に会いに行く。迅は歩きながら黒トリガーの存在、派閥争いについてなどを説明してくれた。

「まあ今は名前のことでピリピリしてるから、あんまり更に危険要素増やしたくないんだろうな」

迅は会議室でどっかりと一番後方に座っていた男を思い出す。彼がどういう考えなのかは知らないが、今回の遠征に名前が参加しなかったことは少なからず彼にも思うところがあるはずだ。

名前? 内部の事情を知らない三雲が首を傾げる。迅はすでににやついている口元を更ににやりとさせた。

「城戸さん派の、黒トリガー使いだよ」

▽▼▽

ボーダー提携校という、ボーダー隊員が多く在籍する学校がある。学力に合わせて進学校と普通校があるのだが、名前は普通校に通っていた。

「玉狛に?」

「そー」と間延びした返事をしたのは米屋だった。米屋は一つ学年が下だが、ボーダー隊員はボーダーの話だろうと他クラスに入り浸っても文句を言う者はいなかった。

「まあ黒トリガーが玉狛に二本なんて城戸司令が許すとも思えねぇし、何が何でも奪うだろうけど」

話のネタは、先日玉狛に入ったという黒トリガー使いのことだった。黒トリガーというだけで大騒ぎだというのにそれが近界民だというのだからなおさらだった。

米屋は古寺と共に玉狛支部に張り込みをしているらしく、少々お疲れのようだった。ぐでーんと前のめりになっていた。

「その子何しに来たんだろうね」

「ん?」

「目的も無しに知らない世界に単身で来ないでしょ。スパイ?」

「知らねぇけど……でもそれだとバレバレすぎねぇ? 近界民ってバレた時点で怪しまれるし」

「だよねぇ」と名前はサンドイッチを頬張った。サンドイッチはみずみずしいレタスが良い食感をだしていた。

「ま、俺は入隊してくれたら個人ランク戦できるし万々歳なんだけど」

黒トリガーを取れるつもりでいる言葉だった。個人ランク戦は一般用の支給トリガーのみ参加可能だ。

すぐに取りに掛からないのは遠征部隊の帰りを待っているのだろう。未知の黒トリガーと近界民のトリガー使い。用心に越した結果と言えるだろう。

名前は「どうかな、」と少し考えた。玉狛ということは迅も一枚噛んでいるはずだ。あの迅が、そう簡単に渡すだろうか。戦術でも作戦でも、奴は何手でも先を見越すことができるのだ。

「それはそうと、話を聞いている限り三輪くんはだいぶ機嫌が悪そうだね?」

話題を変えると米屋は「あー……」と苦笑いした。

三輪は米屋が所属する部隊の隊長で、近界民への嫌悪はボーダー随一と言えるだろう。そんな彼が始末しようとした近界民に多対一で敗北し、しかもその近界民が自分と同じ組織に入隊した。機嫌が悪くなる材料がこれでもかと揃っていた。

「先輩励ましてあげたら?」

「私、なぜか三輪くんに嫌われてるんだよね」

「先輩が秀次にちょっかいかけるからだろ」

「そんな。後輩を可愛がってあげてるのに」

けらけらと名前が笑うと、米屋も「そこが駄目なんだろ」と笑った。


(世界は平和なのか 一人でなんて、こわいだろうに)

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