かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ なにも言わないのなら

B級ランク戦開始の日。多くの人間が本部に集まり、解説を聞いたり戦闘の見学をしていた。その中で、本部にいるどころか住んでいる人間の姿は見当たらなかった。

「先輩が来るの久々っすね」

「そうだっけ?」

「そうですよ」と烏丸が肯定する。玉狛支部でお茶を飲む名前は、そういえば大規模侵攻以来だったかと思い出す。

「むしろ今までが来過ぎだったんだと思う。支部に出入りしすぎだろって前太刀川さんに言われた」

「お前玉狛に行ってんの? うちには遊びに来ねーのに?」と話を聞いたときの太刀川は我が子に裏切られたような顔をしていた。これでも名前は遊びに行っているほうだが、太刀川は自分の隊より多く玉狛に行っていることが気に入らなかったらしい。

「いいんじゃないっすか? 元はと言えば、小南先輩と迅さんが来いって言ったんだし」

元々ここには、迅経由で遊びに来たことが始まりだった。そこから一人で暮らしているという話を知られ、「一人で食べるくらいならうちに来い」とよくお呼ばれするようになったのだ。

「それもそうなんだけどね」と名前が何だか濁したような言い方をした。その事に対し烏丸が少し黙ったのを見て、どうしたの?と聞く。

「……別に」

「別にってなにさ」

「先輩、偶に俺たちと距離取ろうとしますよね」

「え? いや、そんなことはないけど」

そのことを言及されたのは初めてだった。烏丸は相変わらず無表情のイケメン顔だったが、少々ジトっとした目で見られている気がする。

「……ま、いいですけど」

全然良くなさそうに烏丸が言って、「だからそんなことないって」と名前が否定した。この後輩は、何かとよく気が付きやすい。

「先輩が来たくないって言っても、小南先輩が無理矢理連れてくるでしょうし」

「だから来たいってば。超来たい。玉狛大好き」

「じゃあうちに入ってください」

「それは無理」

「うちに入れば?」という勧誘はもう何度も、それこそ迅と初めて会ったときから受けていた。迅は名前を近界民と思っていたため、何かあったときを考えて玉狛にいたほうがいいと。しかしこれを名前は拒否した。

「城戸さんには少なからず恩があるし」

「……やっぱそこっすか」

「そこだよ」

城戸に対する名前の恩というものがどういったものか烏丸は知らなかったが、名前はこれを理由にテコでも動くことはなかった。

「それにしても、今日って空閑くんたちもいないんだね?」

レイジや小南は任務や学校でいないことも多いが、放課後になっても玉狛第二全員がいないことは珍しい。全員ということは防衛任務?と聞いた名前に烏丸が「は?」と聞き返した。

「今日からランク戦ですよ」

「えっ」

名前が今日からだっけ、と聞き返すと烏丸が頷く。S級に上がるとランク戦には参加しないため、いつからなどと忘れていた。

「三雲くんはまだ出さないよね?」

「傷が傷ですからね。もし本部が認めても支部長が認めないですよ」

「そっか」とほっとした表情になった名前を烏丸は見た。彼女は、人が怪我をするという状況を嫌っていた。それは普通で当たり前の感覚だが、彼女の嫌い方は、少し変だった。

嫌いというより、申し訳ないというような。

「え、ちょっと、とりまるくんどこ行くの」

ソファから立ち上がった烏丸を見て名前が言う。烏丸は「バイトです」と端的に答えた。

「それはこれから私は玉狛に一人ってこと?」

「そういうことですね」

陽太郎の姿も見えず、いよいよこれは一人でお留守番確定である。玉狛の人じゃないのに?と名前が言うと「じゃあ玉狛の人になればいいんじゃないすか」と少し意地悪く烏丸が返した。

(なにも言わないのなら 少しくらい、寄りかかってくれたって)

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