かくして迷子は家に帰った | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ いっせーのせで落とし穴を踏む

「私が住んでいたのは、トリガー技術の存在しない場所だった」

名前が話した少しの昔話は、ヒュースを驚かせるのには十分だった。玄界によく似た、それでいて違った世界。その話は、以前にも聞いたことのあるものだった。

「ここで隊員をしながら、自分のいた世界を探してる。3年近くここにいるけど、ようやく見つけた手がかりがそのリュウっていうの」

「……どこでそいつの名を聞いた」

そいつ、そして名。ということは人間という認識であっているのかと冷静に名前は新たに増えた情報を頭の中で思いながら「君の仲間が口を滑らしてくれて」と言った。

「君と同じ、角の生えた男の人。ワープ使いと一緒に消えちゃったから続きは聞けなかったんだけどね」

「……」

ヒュースは口を滑らしそうな男を二人思い浮かべた。一人は、黒髪で黒トリガーを使う男。いや、奴ならば全て話してしまいそうな気がする。となると、レークというもう一人の仲間だろうか。

いや、元仲間か。ヒュースは自分の中の認識を訂正した。

「彼の態度と口振りから見て、その人は私のこの状況と関わりがあるんじゃないかというのが、私の結論」

あの時、名前の言葉を聞いて彼は明らかに態度が変わった。彼は目の前にいる青年とは違い、隠し事が下手なのだろう。

「心当たりは?」

「……」

「ああ、そうか。自国の情報は話さんぞだっけ。困ったなぁ」

特に困ってもなさそうに言われた言葉に、ヒュースは眉の間の皺を濃くした。それに対し「最近の若者は眉間に皺入れるの流行ってるの?」と名前は状況に合わず全く自分に懐いてくれない後輩を思い出した。

「……それで。貴様の目的はなんだ」

「今話したじゃん。故郷に帰る事」

「そうじゃない。俺に対する目的はなんだと言っている」

自分に素性を明かしたということは、その上で頼みがあることはわかっている。それを聞くと目の前の女は「話が早くて助かるね」と笑った。

「あなたには、私にその人の情報を与えて欲しい」

「……」

「残念ながら私は名前は知れても、相手の顔がわからない。居場所も……まあ探せば見つかりそうだけど、さっさと会えればそれに越したことはない」

ヒュースは黙ったまま話を聞いていた。名前は彼がしっかりとこちらの言葉に耳を傾けていることを確認したうえで、自分の交渉のカードを出した。

「それが出来ると言うなら、私は君が国に帰れるよう動いてもいい」

「……!」

かすかに驚いたヒュースに、「お、予想以上」と自分のカードの強みを確信した。

「……」

「君にとって、悪い話じゃないと思う」

動揺しながらも、すぐに彼は平然を装った。尋問などの訓練でも受けているのだろうか。それが揺さぶられたということは、自分が思っているより彼は自国に帰りたいらしい。

名前は一度も目線を外さなかった。ヒュースも、その目の奥に真意を探した。

でたらめではないと思った。彼女の話は一応納得がいく。自分が国にいたとき聞いた戯言と、彼女の話はかちりと繋がっていた。

となると、奴の話が真実であるということか。ヒュースは自国にいる、先ほどから話に上がっている人物を思った。

「……否定の言葉が無いのは、交渉成立ってことでいいのかな?」

確認するように名前が言う。言い方が少し子供相手に話すようで気に入らなかったが、現時点でヒュースが欲しいカードを相手は持っていた。

「……好きに捉えろ」


かちり。予知を持つ胡散臭い男のように、どこかで未来が変わった気がした。


(いっせーのせで落とし穴を踏む 落ちちゃったね、もどれないね)

prev / next

[ back to top ]