▼ もしもテレフォン
名前は街で小説を購入した。菓子類などは食べきれるかわからないし、目が覚めたときの暇つぶしになるものを、と考えたからだ。
ただ、買ったその日、その翌日と防衛任務などで面会に行く暇が取れず、結果として三雲が病院へ入院して3日目になってようやく見舞いにくることが出来た。
「名前」
「おおっ風間さん。風間さんも三雲くんのお見舞いですか?」
「ああ」
風間の手元には高そうな紙袋が下げられており、何かお菓子でも買ったのだと予想がつく。
「三雲くん今回すごい頑張ってましたし、一級戦功くらいもらえるかもしれないですね」
「そうだな。お前は確か、人型戦で善戦したらしいな」
「そうなんですよー。風間さんとこにも黒トリガー来たらしいですね」
「ああ。菊地原も歌川も三上も、よくやってくれた」
「……それ本人たちに言いました?」
「? いや」
「言ってあげましょうよー。みんな風間厨だから喜んでくれますって!」
「厨……?」
風間が首を傾げ、そのまま黙り込む。何か考え事かと風間を見ると、ばちっと目が合った。
「……」
「どうしました?」
「……いや、」
丁度三雲の病室に付き、会話は中断される。一応中に声をかけると、中から聞き覚えのない女性の声が返って来た。開けてくれたのは20前半くらいの女性で、顔がどことなく三雲に似ているので家族の方なのだろう。
「風間と言います。三雲くんの様子を見に来ました」
「ありがとう。修が起きたら喜ぶわ」
渡された紙袋をすでにいくつか置かれた見舞いの品と共に置く。綺麗な人だなぁと思いながら名前も袋を渡しながら聞いた。
「名字です。三雲くんのお姉さんですか?」
「母よ」
「……はい?」
「母よ」
2度繰り返したということは、聞き間違いの線は消えた。どういうことだ。細胞の死滅が20代から起きていないというくらいに若々しいその肌はどうなっている。
名前は考え込んだが、隣にいた風間が三雲母と会話を始めたのを見てその考えはやめた。世の中には20代にしか見えないママさんもいるし、中学生にしか見えない大学生もいるのだ。
少し三雲の様子を見て、雨取や空閑に変わりはないかを聞けば、空閑はこの病室に来てはいないらしい。何故だろうと思うのと同時に、ならば他の玉狛隊員はどうだと聞く。
レイジ、烏丸が今のところ来ているらしい。となれば、今日は小南だろうか。雨取は毎日見舞いに来ており、そして昨日は迅も来たらしい。
「迅さん?」
迅=ぼんち揚げの方程式が出来上がっている名前は、見舞いの品の中にぼんち揚げが無いので迅はまだ来ていないと思っていたため疑問符を付ける。三雲母は「ええ」と続けた。
「何度も私に謝ってたわ。……誰も悪くないのに」
三雲を見てそう言った彼女に、自分の息子がこんな状態になってもそう言えることはすごいと思った。
迅が何度も謝っていたということは、恐らく何か「視えて」いたのだろう。それを止めることが出来なかったと悔やんでいるのか、と名前は呆れた。三雲といい迅といい、全て自分で背負おうとするやつは手に負えない。
挨拶をし、病室を後にする。廊下で出水、米屋、緑川と遭遇し後日東に連れて行ってもらう予定の焼肉に関しての話をしてから病院を出た。
「風間さんこの後暇だったら一緒にご飯食べません?」
「いや、俺はこの後防衛任務がある。悪いな」
「えー」
「米屋たちと食べたらどうだ」
「風間さんがいいんですけど」
「無理言うな」
ともあれ防衛任務はサボらせられないし、風間がサボるとも思えない。大人しく米屋たちを待つことにしよう。頑張ってくださいねーと手を振ろうとしたとき、風間が振り返る。
「……お前は、」
「はい?」
「隊に戻る気はないのか」
「え。いや、あの黒トリガー機動できるの私だけじゃないですか」
「そうだな……まあ、無理はするな」
「……? はい」
今度こそ手を振って風間を見送る。最後の言葉が何を指して無理をするなと言ったのかは、名前にはわからなかった。
(もしもテレフォン 君がこのことを知ってたらあるいは)
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