かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 明日には治ってるはず

「報告は以上です」

名前がそう言った。城戸はその女の顔をじっと見ていた。報告の間、城戸と名前の視線が交わることはなかった。

本部に戻って来た名前からの報告。B級合同と人型近界民を撤退に追い込み、その後新たにC級の前に現れた人型をまたも撤退、そして新型トリオン兵を含めた残機の追撃。それは誇れるほど素晴らしい実績だった。

城戸が気になった部分は、彼女のトリオン体が耳から頬にかけて傷を負っているという部分だった。よくもまあ、そんな危険な場所に傷を負ったものだ。何事も無かったように報告をするその女に対し、城戸はそう思った。

▽▼▽

会議室を後にし廊下を歩いていると、忙しなく走る人の群れを見た。その先にあるのは解析室で、キューブにされた人間を復元しているのだと気付いた。

「名前さん!」

「雨取ちゃん! キューブにされてたって聞いてたけど……戻れたんだね。三雲くんたちも一緒?」

「そ、それが……修くんが……!」

必死な表情の雨取に何事かと聞く前に後ろにいた木虎から三雲がトリオン体を解いた状態で重傷を負ったことを聞かされた。

雨取と共に病室へ向かうと、いくつもの機械に繋がれた三雲がベッドに横たわっていた。硝子越しの面会室には空閑の姿もあり、静かに三雲を見つめていた。

「……」

相手はトリオン体にのみ攻撃を当てられた。当たれば緊急脱出も免れない。生身になるのは正しい判断だった。そうだとしても、いつだって当たり前のように自分を犠牲にする彼は見ている人間には歯がゆいものを感じさせる。

雨取と空閑を面会室に残して外に出る。彼らは同じ隊の仲間だ。

自分がいては邪魔だろうというのは建前だったかもしれない。彼の怪我を憂うほど、自分は彼に肩入れできていなかったというのが本音だったかもしれない。

ああ、駄目だなぁ。

違うだろう。そうじゃないだろう。ボーダー隊員の名字名前はそんな奴じゃないだろう。ふざけながらも、ちゃんと周りの心配のできる人間だろう。そういうことに、したかったんじゃないのか。

部屋に戻る途中で太刀川とすれ違った。急いでいるということにして、会話はあまりしなかった。

彼は今回何をしていたんだ。あれだけの人型近界民は彼の得物だろう。何故三雲たちの傍にいなかった。そうじゃない、彼はトリオン兵を狩っていたはずだ。十分に仕事をしたはずだ。

じゃあ、何を苛ついているんだ自分は。

ベッドに倒れ込む。トリオン体は大して傷ついておらず、すぐに無傷の状態に戻せるだろう。そもそも頭部の傷は自分が通信機を破壊する言い訳のために付けただけだ。人型との戦闘を聞かれるわけにいかなかっただけだ。

機嫌が良くなるはずだったんだ。今回の件で報酬はたんともらえ、自分の世界に帰れるかもしれない手がかりを手に入れた。上層部からのお咎めもなく、全て丸く収まるはずだった。

はずだった?

それはつまり、丸く収まっていないと思っているように聞こえる。ああ、何て情けない。三雲修というひどく真っ直ぐな少年が傷ついただけでこのザマだ。名前はよかったと笑い、自分を酷く嫌悪した。

ボーダー隊員の名字名前は自分の仲間の心配が出来る。そして仲間を騙していて、利用している人間にこんなときだけ綺麗な人間のように情を移す自分は何て「悪い人間」なのだろうか。

ゆっくりと目を閉ざす。少し疲れた。きっと、目が覚めてもこの三門市全体に起きた出来事全てが収まっていることはないけれど。自分の中の出来事は綺麗に収まるはずだ。朝起きたら、ボーダーの名字名前として三雲の見舞いにでも行くことにしよう。


(明日になれば治ってるはず 現時点、治療中)


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