かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 世界は苦くてちょっと美しい

味方がフルガードを使い米屋を敵の攻撃から守ったことで、人型戦はこちらの勝利で終わった。敵は換装体が解け、人型の仲間であろう黒い角の女と共に姿を消した。

「今のゲートっぽいのもトリガー?」

緑川の言葉に「多分ね」と名前が返す。

東に焼肉を奢ってもらう約束をし、出水たちは三雲たちの、名前は人型がいるというレイジの下へ急ぐ。

しかし、見たことのないトリオン兵のせいでそうもいかないようだ。

「硬っなにこいつ」

見たことのないトリオン兵に攻撃を入れた緑川が驚く。

「噂の新型っぽいねー。今度はウサギか、敵さんも中々可愛い趣味してんね」

「こっちとしちゃ、全然可愛くねーけどな」

「緑川! 米屋先輩! 名前さん!」

「やー三雲くん雨取ちゃん。無事でなにより」

安心したように笑った三雲に名前も笑顔で返す。新型トリオン兵は7体ほどで、全て倒すのは中々骨が折れる。どうしたもんかとトリガーを握りなおすと同時に、見たくないものが見えてしまった。

「え……」

「どうした先輩」

新たにゲートが開く。そこから出てきたのはウサギの可愛らしいトリオン兵ではなく。

「人型……!!」

▽▼▽

黒のマントを身に着けた、角付きの男。色が黒でないのが戦闘狂でない名前の救いだった。

新たな人型の登場に三雲たちはC級を連れて走る。出水たちも人型と戦いたくともそこはきちんと判断し、新型撃破から新型を蹴散らしつつ退散に切り替える。

敵の狙いがC級にあることは、既に報告が来ている。新型を相手している間にC級にちょっかいを出されては困る。

よりによってC級がいる地区に出ることもないだろう。いや、C級がいるから来たのか。どちらにせよ、観客がいるとやりづらい。

「先輩! 早く行くぞ!」

逃げる一同に対し、一人逃げる気配のない名前を米屋が呼ぶが、名前は「先に行って」と告げるだけだった。

「元々私は人型と戦闘しにきたわけだし、ここは私が引き受けよう。米屋くんたちはウサギとC級よろしくー」

「そんな!? 名前さん!」

「三雲くんは雨取ちゃん守る事! みんなかいさーん!」

人型は笑みを浮かべて待っていた。ご丁寧なことだと名前も笑う。

「ここは名前さんに任せる。修、行くぞ」

「……っはい」

しぶしぶながらも、なんとか全員行ってくれた。みんな無事に行ってくれてよかった、と名前は安堵する。


もちろん、三雲たちを気遣っての安堵ではないが。


「あん中でお前が一番強ェのか?」

「そうだよ。見逃してよかったの?」

「ああ。代わりにお前が相手してくれんだろ?」

ここで人型に遭えたこと、三雲たちを逃がせたことは大きい。全て、自分の望み通りにことが運んでいる。

相手との距離は15mほど。迅のようなタイプならもう攻撃を仕掛けているかもしれないので迂闊に突っ込むのは上策ではない。

向こうに動く気はないらしいが、こちらも相手が動かない限り動く気はない。なら、もう先に聞いてしまおうか。

「ところで、君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「あ?」

「“ここ”でも“向こう”でもない場所を、知っている?」

男は、目を見開き、そしてすぐに細め眉を寄せる。その表情に、名前は心臓が弾んだ。

「テメェ、リュウの……」


ああ、やっとだ。

やっと見つけた。


「ありがとう。これで存分に戦える」

ブゥンと、手元の黒いそれを機動させた。

(世界は苦くてちょっと美しい ようやく少し、綺麗だと思えたよ)

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