▼ 全部こわしちゃえ
その日は案外すぐ訪れた。
「何これ」
今と国近と昼食を取っていた名前は窓の外が黒く染まっていくのを呆然と見ていた。見たことが無いほどに多くの門の数。資料でだけ見たことがあった第一次大規模侵攻とよく似ている。
「私、本部に戻るね」
「私も支部に戻るわ」
「わかった。出水くんたちと合流する」
教室を飛び出して廊下を走っているとピリリと本部からの緊急連絡が鳴る。
『名前。出水たちとトリオン兵を減らしながら、急いで北部へ向かえ。今のところ人型近界民は無い』
「了解」
下にはすでに校門に向かっている米屋と出水の姿が確認できたため、面倒くさい、と階段を使わず名前は窓から飛び降りた。着地前にトリガーを機動させた。
「うおわっ!? 空から女の子が!」
「親方!」
「おいこら、遊ぶな」
この状況で咄嗟に出てきたジブリに出水が注意する。校門を出れば既に大量のトリオン兵が出迎えてくれた。
「なんだ、雑魚ばっかだな」
拍子抜けしたように米屋が言い、名前がさっくり米屋の前にいた敵を倒して米屋を見た。
「じゃあ勝負でもする?」
「お、いいな」
「先輩、北に向かうんじゃないの?」
「向かう向かう。でもトリオン兵を減らしながら、って指示だから」
途中でトリオン兵を倒している緑川と合流し、遭遇したトリオン兵を倒していく。と、付近から大きな弾の音がした。
「ん? 噂の新型かね」
先ほどまた連絡があった内容を思い出しながら言う。『新型トリオン兵が、トリガー使いを捕まえている』というもので、今までのトリオン兵より大幅に戦闘力が高く、別物と思ったほうがいいらしい。
「だとするとすげー破壊力だな」
ひょいひょいと建物を上って確認すると、隊員らしからぬ男とB級戦闘員が下にいた。
「うわ、あれ角付いてない?」
「人型近界民!? ラッキー!」
ザザ、と通信の音がして耳を押さえる。人型近界民の報告と、近くの隊員は戦闘中の烏丸、三雲を援護しろという指示だった。
『名前は人型に向かい東たちと人型を撃破しろ。今後も人型が現れる場合、名前も中心区にいたほうがいいだろう』
「北部は?」
『天羽に任せる。対人型戦では東の指揮に従え』
「おっけー」
「よねやん先輩どうすんの? 本部長は玉狛を擁護しろって言ってるよ」
通信を切り隣で自分と違う指示を出された出水たちを見る。どうする、と聞きながら緑川にここを立ち去ろうとする気配はない。
「どーすっかなー、もうこっち来ちまったもんなー」
「放っといたら玉狛の方に行くかもしんねーしここであいつ倒しとくほうがいいだろ」
「だね、賛成」
「うわあ下手な演技」
本当は戦いたいんだな、と後輩たちの大根演技を聞きながら下で戦闘している人型を見る。B級部隊は今は隠れて形成を立て直しているらしい。
先ほど一緒に昼食を取っていた国近から戦闘データを送ってもらったところ、敵は射撃攻撃が基本らしい。しかも、火力がある上に中々細かい射撃をする。
出水が東に連絡を取り、角付きと戦うのでサポートに入ってほしい事を伝える。敵には戦闘が始まるまで隊員が増えたことをバラしたくないので、敵から死角になる位置で情報を交換する。
『相手の射撃トリガーは性能が段違いだ。射程、威力、弾速、速射性も高い。撃ち合うなら足を止めるなよ。火力勝負になると厳しいぞ』
「だいじょうぶです。弾避けが先輩と分けても1つずつあるんで」
「盾さんよろしく!」
「「おいこら」」
2人から不満の声が聞こえても出水は気にせず話を進める。名前は2人に詰め寄られるが「えへっ」と笑ってごまかした。
荒船の声がして、狙撃手も隠れていたのかと気付く。注意して見てみると、少し離れた建物に狙撃手の一人を見つけた。
『敵はイーグレットを止めるレベルのシールドを持ってる。ブレードも防がれるかもしれない。単発で崩すのは難しいぞ』
「了解。イーグレット止めるとなると崩しに使える弾はアステロイドかな。どっちにしろ接近戦交えないときつそうだ」
「先輩黒トリガー使えばいいじゃん?」
「あー、今回ことごとく人のいる場所にトリオン兵送ってるの見る限り敵さん結構自由にゲート開けるっぽいんだよね。人型逃がしたときに黒トリガーの戦闘データ取られても困るから、マジでやばくなるまで使わないつもり」
『そこの建物のデータがあったから送るね。“旧・三門市立大学”』
「おっ、柚宇さん気が利く!」
「よし行くか。作戦はマップ見て考えよーぜ」
送られてきたマップによれば敵は学校の正面、校庭付近にいるらしい。ビルから下りた名前たちは今はもう使われていない飼育小屋の前に下り立った。相手は見えず、相手からもこちらが見えない距離だ。
「相手が弾タイプってことは近づかなきゃジリ貧でしょ」
「人数で勝ってるから挟み撃ちだな。動き回って裏取れたら当てていく感じでいくか」
「建物は向こうが壊すだろうし壊していいよね?」
「いいっしょ。とりあえずおれが一発ぶっ放すからあとは臨機応変に」
了解を言うと同時に別行動を取る。
さあ、戦闘開始だ。
(全部こわしちゃえ 何もかも掻き消すくらい)
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