かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ たべる、という行為

会議内容は知っていた。近々来るであろう、トリオン兵の大規模侵攻について。これは、名前は城戸から知らされる前から知っていたことだ。

1ヵ月ほど前のことだった。迅から、空閑とレプリカというトリオン兵が近界で旅をしていたことを聞いたのは。レプリカはトリオン兵だが人工知能のような存在であるらしく、正確には話をしてくれたのはレプリカらしい。

そしてそのレプリカが話していたこと、それから今回の大規模侵攻は名前の未来と関係がある可能性がある、と。

大規模侵攻。これのために名前は力ある立場に立ち続けていた。

会議に参加している隊員は名前、風間、三輪、宇佐美。あとは上層部の中で直接侵攻と関係のある鬼怒田、忍田、林道そして城戸。

他国からの侵攻となれば一番活躍できるはずの迅の姿がないのは、遅れてくるつもりなのだろう。

(迅さんの話が上にも伝わっているのであれば、空閑くんとそれから……そのレプリカってトリオン兵も来るはず)

唯一の手掛かりを提示してくれた人物。それがトリオン兵だとしても、会って人物像を確認しておきたかった。

扉が開く。迅が空閑たちを連れ入室した。遅れての登場に鬼怒田が「遅い」とヤジを飛ばした。

空閑に対し近界民としての意見を求めると、空閑は自身よりも相棒に聞いた方がいいと言った。

『私の名はレプリカ。ユーマのお目付け役だ』

「レプリカ……」

名前が小さくその名呼ぶ。黒い球体の胴体のようなものに二本ウサギのように耳が垂れている。自分が想像するよりも、ずっと小さなトリオン兵だった。

ボーダー側が求める情報を提示するには、ボーダー情報の近界の配置図では不足だとレプリカが言い、玉狛支部が準備を始めた。

ぶわっと一気に増えた各国の配置図に、会議室中が息を飲んだ。

「これは……」

綺麗だ。単純にそう思った。世界地図と言われると平ぺったい紙で書かれたあれを思い出すが、近界の世界地図はほう、と感嘆の声が出てしまうほどに綺麗だった。

ここまで細かいデータは、何回も遠征に行かないとわからないだろう。それをするには、何年も時間がかかった。

国が惑星であるという説明で、なんとなくこの宇宙のような地図を理解はできた。現在こちらの世界に近づいてきている国は、4つ。

『海洋国家リーベリー。騎兵国家レオフェリオ。雪原の大国キオン。そして近界最大級の軍事国家、神の国アフトクラトル。現在“こちら”の世界に近づいているのはこの4つの国だ』

その4つ全てが来るかもしれないし、来ないかもしれない。はたまた乱星国家と呼ばれる別の国が来る可能性もある。いずれにしろ、危険なことに変わりはない。

可能性を考え出せばきりがないので、先日の爆撃型トリオン兵と偵察用小型トリオン兵。あれらを大規模侵攻の前触れとして対策を講じるという今回の会議内容に風間が話を戻した。

遊真の意見では、アフトクラトルかキオンという、その中でイルガーを使用する国の名を挙げた。以前の爆発型に当たるのが、そのイルガーだ。

「でもあのイルカも倒せないことはないし……問題は敵国にどんだけ黒トリガーがあるかじゃないの? それによって戦力配分もしないと」

『我々がその2国に滞在したのは7年以上前なので現在は異なるかもしれないが私の記録では当時キオンには6本、アフトクラトルには13本の黒トリガーが存在した』

「13……!?」

圧倒的な数の差に誰でもなく驚きの声が出た。だがレプリカが言うには黒トリガーはどの国でも希少なため、通常は本国の守りに使われる。多くても一人までだろうと分析していた。

「では人型近界民の参戦も一応考慮に入れつつ、トリオン兵団への対策を中心に防衛体制を詰めていこう」

「さあ、近界民を迎え撃つぞ」


▽▼▽

「やあ三輪くん。元気してる?」

会議が終わり、各自解散となったとき。名前は扉から出てきた三輪に声をかけ、あからさまに三輪は嫌な顔をした。

しかしそれはいつも通りな光景なため、別段他の者たちも気にした様子はなく、さっさと解散した。

「うは、隈すご。何日寝なかったらそんなことになんの」

「……なんなんだ。何か用か」

「用ってか、お小言言いに来た。食事と睡眠は取らないとダメよ」

名前はいつものふざけた態度だったが、言っていることは最もだった。三輪は黙って名前を睨み付けた。

「近界民が入隊しようと、ボーダー隊員が戦闘員であることには変わりないんだから。戦闘員の仕事は食べて寝て戦う事」

そう言って、名前がずいっと袋を渡してきた。三輪がじっとその袋を見てるだけで手を出す様子がなかったため名前は「はい。渡したからね」と言って三輪に無理矢理袋を持たせた。

「っおい、」

「ばいばいっ!」

突き返されそうになる前に名前が走って逃げる。三輪は数歩だけ追いかけたがすぐに諦めて袋に視線を戻した。

「……」

中に入っていたのはおにぎりやおかずの入ったタッパ―で、珍しいことにお菓子の類は見受けられなかった。栄養のあるものを食べろという意味なのだろう。

(……そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるんだよ)

小さく舌打ちをして、三輪は袋を忌々しそうに握りしめた。


(たべる、という行為 生きる、という行為)




翌日、本部内のとある少女のみが使用する部屋の前には、空になったタッパが入った袋が置かれていたらしい。

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