かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 噂ばなし

彼女がボーダーに来たのは、今から3年近く前のことだった。


仮入隊時から圧倒的な強さを持ち、正式な入隊をしてから怒涛のスピードでB級へ昇格。ランク戦で名をあげ、さらに太刀川隊へ入隊しA級に上がったかと思えば、ブラックトリガー持ちのS級へ。しかも本部に住んでいるということもあり、異例ずくしな彼女は常に注目の的だった。

C級、とくに新隊員たちはよく彼女の都市伝説的な噂をすることが多い。とてつもない美人らしいだとか。腕力が男の5倍はあるらしいだとか。外国から送り込まれたトリガー使いだとか。噂はまちまちだ。

その中に、入隊前からブラックトリガーを所持していたという噂もあったが、それならばわざわざA級に上るなんてことはしないだろう、とすぐにその噂は消えた。

そんな、美人で男の5倍の腕力で外国からの使徒ということになっている少女が、まさかその噂を横で聞きながらジュースをごくごく飲んでいるとは、彼ら新隊員は思ってはいなかった。

「人の噂って恐ろしいねぇ。一つしかあってないよ全く」

「別に美人じゃないですよ」

「殺したろか」

菊地原の発言にぐしゃっと空き缶をつぶす。それを見て菊地原は「あ、腕力のほうでしたか」と更に煽る。

横を通り過ぎて行った隊員たちはA級隊員がいるということにしか気づかず、会釈をしただけで、噂の人物には気付かなかった。

「空閑くんたちを見に行くって言ったから連れてきてあげたのに本当に可愛くないね君」

「別に頼んでませんし、来たければ勝手に来れますし」

「おいやめろ菊地原。お前らの会話はキリがない……すみません」

「ほらもう見てごらん歌川くんはこんなに素直!」

「キリがない人物に含まれてるのに気付かないあたり頭が平和でいいですよね」

「おい、行くぞ」

子供のような口喧嘩も最年長の風間を前に終了し、お互い軽く睨み付けながら目当ての人物である空閑を見るため歩き出した。

▽▼▽

「0.4……今期は安泰だなあ」

「慣れれば誰だってあれくらいできますよ」

「素人の動きじゃありませんね」

「やっぱ近界民か」と歌川が小さくこぼす。確かに、初めてトリオン兵に対峙する人間の動きではない。

入隊式の最初はバムスターを倒す戦闘訓練。毎回これなので、これがどれだけ早くできるかで隊員たちの中での期待値というのは変わって来る。

現在オリエンテーションをやっているのは空閑、それからそれについて来たのか三雲の姿も見えた。雨取は狙撃手志望のため別行動だ。

「先輩、玉狛に入り浸ってたって聞いてますけど、あいつの特訓に付き合ってたんですか?」

歌川がたった今一番の成績を出した白髪の少年を指して言う。「いや」と名前が否定する。

「私は三雲くんっていう眼鏡の子の。それにいつもってわけじゃなくて半分以上とりまるくんが……と、」

軽快な音楽を鳴らす携帯を手に取り着信を見る。嬉しそうに電話に出た名前に歌川は首を傾げた。

「はいはい、こちら名前ちゃん」

『おめー知ってやがったな』

開口一番ドスの効いた声で文句を言って来た同級生に「あらら、何の事?」ととぼける。

「まさかと思うけど雨取ちゃんにアイビスでも使わせた?」

『その通りだよ壁貫通したぞどうなってんだ』

「貫通……っ」

『笑ってんじゃねぇ』

狙撃手のほうを受け持っていた荒船が電話の向こうで爆笑し始めた女に対し文句を言う。女は「あれ、」と気付いたことを荒船に聞いた。

「そっちの現場監督って……」

『佐鳥だ』

「さっ……!!!」

『……おい、そんなに笑ってやるな。不憫になってくる』

気付いた面白すぎる現実に名前が呼吸困難になるほど笑う。佐鳥の不憫ポジションというのは何故こうも面白いのか。それはきっと彼が愛されキャラだからだ。

「……」

会話の流れが聞いていた歌川だけが、電話の向こうの佐鳥に一人同情した。


(噂ばなし 全部嘘とはいってないけど)

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