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約束のハナシ

さっきの時間に配られた、まだまっさらな進路希望調査のプリントをぼーっと見つめていたら肩越しにぬっと顔が現れて驚きすぎて声も出なかった。
……キヨくんは目を見開いて固まる私を一瞥すると、第一希望の欄を指さして口を開いた。


「(名前)ちゃんは俺のお嫁さんになるんでしょ」
「…………え!?」
「ハァ〜!?そう言ったじゃん。何アレ嘘だったわけ?」


……アレってきっと小さい時の話だ。
小学校に上がる前の話で、小さい頃によくあるようなただの口約束みたいなものなのに、キヨくんも覚えていてくれたんだと思ったら何だか嬉しくなって小さく笑ってしまった。
そんな私を見て勘違いをしたのかキヨくんは不機嫌さを全面に出したまま、手首を掴んで体が向き合うように引っ張った。
眉間に深くシワが寄っている顔が鼻先まで近付いてくる。


「(名前)ちゃん約束したじゃん。絶対するから結婚。(名前)ちゃんは俺と結婚すんの」
「あのね、キヨくんがそれ覚えてたんだなぁって思って。忘れたわけじゃないよ」
「じゃあ書いて。俺の目の前で今。第一希望に」
「……書いて提出したら後で先生に呼ばれるやつ」


渋る私を見下ろしたキヨくんは人のペンケースからシャーペンを取り出した。
いやいや、私が書かないからって自分で埋めようとしないで。
無言でプリントを引っ張ったら睨まれた。
押さえつける力が強いからこのままだとプリントが破ける……なんて未来もあり得なくはない。
待って、と一声かけ私は付箋に「キヨくんのお嫁さんになりたい」って書いて彼の手の甲に貼り付けた。
じーっと無表情でそれを見たキヨくんは、ちらりと私に視線を向けた。
……ダメ、だったかな?
あははーと乾いた笑いを浮かべればキヨくんは付箋をそっと外すと自身のスマホと透明カバーの間に貼り直して……人からしたら分かりにくいけれど満足そうな雰囲気をまといながらその背面を撫でた。


「ちゃんと分かってればいい」
「うん……」
「でも言葉にもして。(名前)ちゃんコレ読んで、口に出して言って」
「……キヨくんのお嫁さんになりたい」
「うん、言質も取ったから。じゃあまたあとでね」


マスクをずらしたキヨくんは私の頬に唇を押し当てた。
それから何事もなかったかのようにマスクを戻してから、ひらひらと手を振って教室を出ていくキヨくんに一応同じように手を振り返していたら姿が見えなくなった瞬間に、我慢できないという感じで隣に座る古森くんが吹き出した。
それから机を叩きながら笑っている。
って、泣くほど笑わなくてもいいでしょ!
キヨくんのせいでまだ冷めない頬を両手で押さえながら隣を睨んでも効果なんてなくて……。


「ヤベェ!ただの公開プロポーズじゃん!」
「笑いすぎなんだけど……」
「だって……アイツ必死すぎか!」


それでもやっぱり好きな人からのプロポーズ、は……どんな形であれ嬉しくて。
忘れた事なんかないのに、それでも私との未来を必死に繋ぎ止めようとしてくれたキヨくんにさらに心を奪われたなんて恥ずかしくて本人にはまだ言えないけれど、今度ちゃんと伝えようって思った。



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