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独り占めしたいハナシ

今度の休みに練習試合があるって言うから「見たいなぁ……」と呟いたら私の膝に頭を預けてゆったりしていた彼……キヨくんは途端に眉間にシワを寄せて見上げてきた。
睨まないでと片手で目元を覆えば、がしっと掴まれて外された。
手を掴んだまま体を起こしたキヨくんは首を横に振る。


「えー……ダメってこと?」
「うん」
「なんでダメなの?」
「人が多い」


絶対、学校生活より少ないよ!と言いたいけれど言い返したところで機嫌は急降下しそうだし。
でも近くで見れるなら見たい……どうしてもダメなのか聞いたら何か言いたげに私を見てきた。
あれ?もしかしてこれ押したら頷くんじゃ……。
いまだに掴まれたままの手でその大きな手を握り返したら、その分しっかりと返された。
反対の手も同じように握れば、ぎゅっと込められた握力。
キヨくん、手繋ぐの好きだからこのままお願いしたら頷いてくれるかも。


「キヨくん……」
「…………絶対俺以外に近付かないで。それ(名前)ちゃんが約束するなら来ていい」
「え、ほんと!?わーい」


まさか了承してくれるとは!
前に黙って友達と行ったら大変な事になったからもうしないと決めていたけれど、やっぱりキヨくんのバレーは好きだからこっそり見に行くところだった……でもちゃんと行ける事が嬉しい。
差し入れは何が良いか聞けばちゃっかりとおにぎりって答える辺り、試合に来られるのが嫌ってわけじゃないんだと安心する。
――……気持ちが浮かれたまま練習試合当日を迎え、早めに学校へ着いた事を伝えたら体育館の入口で待っているとキヨくんから連絡があった。
体育館に近付けば、もたれるように待っている姿が見えたから小走りで向かった。


「あ、あのっ!」
「……え?っ、なに!?」


後ろから声をかけられた気がした。
キヨくんの元に向かう時、相手高らしき人たちとすれ違ったよね……。
その人たちだろうと立ち止まって振り向いたら、後ろを認識するより早く凄まじい力で手を引かれ、気が付いたら私はキヨくんの腕の中にすっぽりと閉じ込められていた。
その体勢のまま後ろに下がって体育館に入ろうとするキヨくんに私は体を預けるしかなくて、何も理解が追い付かない状態で体育館へと足を踏み入れた。
……そんな姿を見た色んな人の戸惑いの声が聞こえてくる。


「……見んじゃねぇ」
「え?」
「(名前)ちゃんには言ってない。だから(名前)ちゃんは俺を見てて」


ぎゅうぎゅうと腕の中にきつく私を閉じ込めたキヨくんは、だいぶ不機嫌だ。
頭と背中に回る手は何かから私を守ろうとしている、らしい。
キヨくんの視線の先には何が見えているのだろう。
私の後ろを睨み付けて威嚇しているみたいだけれど、結局のところ抱き締められて何も見えないから周りの会話で判断するしかないのだけれど。
近くに来たらしい古森くんがキヨくんを宥めている声が聞こえるけれど、その声がどことなく楽しそうなのはきっと気のせいじゃないと思う。


「他校だから俺らの事知らねぇのはしょうがないとしても、それが俺の(名前)ちゃんを狙っていい理由にはならないから」
「狙うって……何か聞きたかっただけかもしれな、」
「汚ならしい視線向けてた。ホント無理」


抱き締めたまま、体を屈めたキヨくんは私の肩に顔を埋めて大きなため息をついた。
落ち着いて……って意味で背中を数回ぽんぽんと叩けば、首筋にするりと顔を寄せてきた。
ちょっとは落ち着いたのかなって思っていたら耳元でキヨくんがぼそっと呟いた。
――……顔面にスパイク当てて見れなくしてやる。
って。
やらないとは思いたいけれど冗談にも聞こえないトーンで言うから私はぎゅーっとキヨくんに抱きついた。
体格差はもちろんあるけれど、それでもやらないよりはマシだと思う。
歩き出すキヨくんの力は予想以上に強く、止められる気がしない。
必死に止めようとさらに強く抱きついたらキヨくんの動きが止まった。


「ねぇ、(名前)ちゃん」
「あっその……えっ……、と」
「何なの……もう可愛すぎるんだけど」
「あ、ありがと……」


私の頭に顔を乗せたキヨくん。
とりあえず立ち止まってくれて良かった。
小さく息を吐いて安堵していたら体にかかっていた圧迫感がなくなった。
……その代わりキヨくんの両手が私の頬を撫で、顔を持ち上げられてキスをされた。
キヨくんの行動に体育館がざわざわと賑やかになる。
その空気に耐えられなくて、無意識に一歩足を後ろに引いただけなのに素早く腰と後頭部に回った腕は私を逃がすまいと力がだんだんと込められていく。
それから絡む舌も私を逃がしてはくれない。


「今逃げようとした?なんで?さっきも狙われたのに俺の腕の中から逃げんの?」
「にっ、逃げてない……よ!逃げてないから……」
「…………ホント?」


縦に何度も頷く私を疑いながら見ていたキヨくんだったけれど、今は腕の中に大人しく収まっている私の頭を撫でている。
差し入れも渡したいからと早く着いてはいたけれど、キヨくんの腕の中にいるだけでかなりの時間が経過していて慌ただしくバタバタと最終準備をしている音が聞こえる。
それでも体育館でキヨくんがキスした事がいまだに衝撃的だったのかその余韻が残っていて空気感が居た堪れない。
これで私一人、観客席に上がらなきゃいけないなんて……恥ずかしすぎる。
手にしていた差し入れをキヨくんに押し付けるように渡して、私は階段を駆け上がった。



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