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ピストルの合図と共に飛び出した私は、誰よりも早くお題を引いたんだけれど……紙を見て、言葉を失った。
その場に立ち尽くして何度も読み返すけれど、その内容は変わらない。
他の走者は借り物を探しにグラウンドに散らばっている。
どうしよう。
おそるおそる、ちらりと、双子が座っているだろう方向に目を向けると私をじっと見ていた。
慌てて目を反らして、またお題に視線を落とす……。当たり前だけど変わってない。
双子とお題を交互に見て、意を決して私は双子の元へ走った。
私の名前を呼びながら手をぶんぶんと振っているツムくんが叫んだ。


「(名前)ーっ!俺ならいつでも大丈夫やで〜はよ借りに来てやーっ!った!何すんねんサムっ!」


座りながら蹴り合っている双子の目の前にたどり着いて、今度はツムくんとサムくんを交互に何度も見る。
……何でこんなお題引いちゃったんだろう。
往生際が悪いのは分かっているんだけれど、無意識にまたお題を見てしまった。
私の反応から、双子も借り物が自分たちなんだろうなとは察しているみたいだし、中身も知らないのにすでに立ち上がってどっちが行くか揉め始めたけれど……これ、本当にやらなきゃいけないのかな……?


「(名前)、お題なんて書いてあるん?」
「せやせや!なに引いたん?」
「あ、………………を、……異性」
「「!!(名前)、もっかい言ってや……!」」
「だからっ!……あ、愛の告白をしてもいい異性っ!」


聞こえていたはずなのに、もう一度言わせる双子にヤケになって叫ぶように伝えたら両腕を掴まれて、後ろ向きのまま引きずられるように走らされた。
後ろ向きで双子の走るスピードについて行ける訳もなく、足がもつれた。
転ぶと思って、その衝撃に耐えようと目を固く閉じたら、素早く背中に伸びてきた腕が私を支えてくれる。
……しかも倒れた拍子に上がった足の下にも腕が入り込んできて、両側からお姫様抱っこで抱えられてしまった。
私を抱えながら双子はずっと言い合いをしている。


「なんでサムまで来んねん!どう考えても俺やろ!それに今日お前(名前)と一緒におりすぎやで……俺の(名前)ええ加減返せや」
「どんだけツムの目ぇ節穴やねん……(名前)はずっと俺見てたやろ!それに二人三脚見てへんかったんか?俺と(名前)のベストカップルやからこその1位やったやん」
「いつまでそのネタ引きずってんねん!(名前)が愛してんのは俺や!」
「男の嫉妬は見苦しいで!(名前)の気持ちは俺に向いてんねん!」


双子はその場に立ち止まって本格的に喧嘩を始めてしまった。
地面に足はついたけれど、私を抱き締めたまま大声で叫んでいる。
グラウンド全体が双子を煽るから余計にヒートアップして、お互いの胸ぐらを掴み出すくらいには周りが見えていない。
私もこのお題で言える異性なんて双子しかいないから喧嘩が終わるのを見ているしかなかったんだけど、「あのっ!」と双子の喧嘩を遮る別の声が届いて3人で声の方向に目を向けた。


「……私のお題が稲荷崎の双子どっちか、やったんやけど侑くんか治くんどっちか一緒にゴールしてくれへんか、な?」
「誰やねん、このブタ……サムが行けや。何で俺がこいつと行かなアカンねん」
「行く訳ないやん。ツムが行けや。俺は(名前)から愛の告白されるんやから無理に決まってるやろ」
「……ねぇ、2人とも先輩だから……目の前にいる人」


冷めた目で言い放ったツムくんの胸に手を置いて少し宥めたら、サムくんの一瞬の隙をついて私を肩に担いで走り出した。
人を抱えている事なんて感じさせない程のスピードでゴールへ向かうツムくんの肩がお腹に食い込んでかなり痛い……。
それから耳に届く応援の声。周りは見えないけれどサムくんが追いかけて来ているらしい。
応援の合間に「なにさらしとんじゃー!クソボケがぁー!」ってサムくんの怒鳴り声も聞こえる……。
私を抱えたままツムくんはゴールテープを一着で切って、盛り上がる声に応えていた。


「つ、ツムくん……そろそろ下ろしてほしっ!?ちょっ、やぁ……!」
「かわええ声やな〜!でもしゃあないやん?顔の真横に(名前)の太ももあったら噛みたなるやん」


……こんなところで双子のシンクロを発揮しないでほしかった。
自分で付けた噛み跡のところにちゅーされた後、肩から下ろされて力強く抱き締められた。
そのままの格好で係の生徒の前まで連れていかれて、私のお題がマイクを通してグラウンド中に伝えられてしまった。
係にマイクを向けられた瞬間、あんなに騒がしかったグラウンドから声がなくなって……固唾を呑んで見守られている。
ツムくんは私を後ろからしっかり抱き締めて今か今かと待ちわびている。
深呼吸をして、私は腹をくくった。


「つ、ツムくん…………あっ、愛してますっ!」
「(名前)っ俺も愛してるで〜!」


告白の勢いで、ツムくんは後ろから私の顎を持ち上げてのし掛かるようにちゅーをしてきた。
双子の喧嘩で盛り上がるこの空間が、今のを見て盛り上がらない訳がなく……。
応援席に戻る間に色んな人に声をかけられた。
ツムくんはしっかりと私の手を握って、楽しそうにその声にも応えている。
頬の熱は外の気温だけじゃないのは分かっているんだけど、このままだと体育祭が終わる頃には双子のせいで身体中が沸騰しちゃうよ……。



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