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あなたはどっち派?

「……あ、買ってたの忘れてた」
「お菓子やん!今食べよ」


隣から私の鞄を覗き込んだサムくんに催促されて机に出せば、パッケージを見たツムくんが驚きの声を上げた。
私は不思議そうにツムくんを見たけれど、サムくんは気にする素振りも見せずにパッケージを開けて食べ出した。
私も食べようと手を伸ばしたら、ツムくんに掴まれてお菓子までたどり着けない。
もう一度、ツムくんに目を向ければ視線が絡み合った。


「……(名前)はきのこやなくて、たけのこ派だったんか?」
「あ、うん……たけのこ派」
「(名前)は俺と嗜好一緒やもんな〜俺もたけのこ派」
「手ぇ汚れるやん。きのこやったらビスケット持てるけど、たけのこ持てへんやん」


ツムくんらしい理由だなぁ……と思って聞いていたら、サムくんがぱくぱくと食べ進めていて、中を見たら残りがもう半分になっていた。
私も食べようと手を伸ばしたら、今度はサムくんに手を取られて……持っていたたけのこを優しく口に押し込まれた。
飲み込んだら、また口に押し込まれて、それをサムくんにぺろりと奪われた…………奪われた!?
また私の口にたけのこを押し込んでこようとする手を掴んで、その手からたけのこを奪い取る。


「(名前)も俺の口から食べるん?あーんしよか?」
「しない!普通に食べるの!」
「……そうやんな。(名前)が食べさせてくれるんやったら手ぇ汚れないやん。たけのこ、ええかもしれんわ」
「簡単に派閥変えんな。ツムのきのこに対する想いはそんなもんなんか?そんな奴がたけのこに手ぇ出したらアカン。失礼や」


私の手を引っ張って食べようとしたツムくんの顔をサムくんが片手で押し返して阻止していた。
手に持っているからチョコが少し溶け出し始めたのが分かるから食べさせてほしい。
空いている手で箱から取り出して食べようとしたら、それに気付いたサムくんが私の手を取って食べようとしてきた。
……食べられる前にツムくんの手がサムくんの顔を同じように片手で押し返している。


「……オイ。なに邪魔してんねん」
「俺が食われへんのにサムだけ(名前)から食べられると思うなよ……」
「きのこ派のツムに食べさせるモンはあらへん。全部俺と(名前)が食う」
「俺は(名前)が食べさせてくれる時だけはたけのこ派や!」
「そんなん許される訳ないやろ!里の皆に謝れや!俺らはちゃんと向き合って食ってんねん!さっさと山に帰れ!」


……この言い合い、いつまで続くんだろう。
サムくんの食べ物に対する執念もすごいけど、意地になっているツムくんの食べようとする執念もすごい。
クラスの皆も双子の会話が聞こえてから、どっち派か話し出して盛り上がっているみたいだし。
いや、そもそも今の双子の会話は派閥から離れてるよね。
私だって食べたいのに、双子が手を離してくれない限りは動けないし……もうチョコ溶けちゃったよ。


「(名前)も言うたれ。ふらふら浮気するツムは最低野郎だって」
「ハァ!?浮気なんかするか!俺は(名前)に一途やっちゅうねん!たかがお菓子やろ!」
「……せやったらはよ手ぇ離せや!食いモンすら一途になれへん奴が(名前)を幸せに出来る訳ないやん!」
「俺はバレーボールで(名前)を幸せにする!小こい菓子やなくて(名前)は俺とバレーを愛してるんやからな!サムはせいぜいそのたけのこと幸せに暮らしてたらええ!」
「…………え、何の話をしてるの?」


双子の言い合いは話が広がりすぎていて、もう私がどうこう出来るとは思えない。
ビスケット、もう見えてるくらいにはチョコ溶けてるんだよ……食べるの?食べないの?
それだけは決めてって言ったら、双子が同時に指先にかぶり付いた。
指先にべったり溶けていたチョコも丁寧に舐め取られている。
……音を立てて指先から双子の唇が離れていった。
でもまだ手は双子に掴まれたままで、じっと見つめられる。


「「なぁ、(名前)は」」
「俺と」
「俺」
「「どっち派?」」


……急にそうやって雰囲気をガラッと変えてくるの、心臓に悪いから止めてほしい。
机に置かれているお菓子は、もう双子の意識の中から一切なくなっていた。



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