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マネージャーの観察

朝練を見ていて感じる違和感。
会った時は少し首を傾げた程度だったけれど、今バレーを見ていたらやっぱりいつもと違う。
……ツムくん、調子悪い。
一応、監督に伝えた方がいいかもしれない。


「……それは体調が悪いっちゅう事か?」
「フィジカルじゃなくて、メンタル面ですかね。えっと……エンジンがかかりきってないって感じと言いますか……」
「言われてみると、そんな気もすんなあ」
「このままいくとフラストレーションが溜まって放課後の部活で爆発しちゃうかも、です」


言葉を理解して頭を抱えた監督は大きな溜め息を1つ吐き出して、ちらりと私に目を向ける。
……どうにか放課後までにしてくれって、その顔が物語っていた。
頷きはしたけれど、どうやって調子を上向きにしていこう。
考えていたら監督に「ほんま(名前)がおって良かったわ……」と感謝されて苦笑いを浮かべるしかなかった。
……今日はツムくん贔屓してあげた方がいいかなぁ。いつも特別扱いしてって言ってたよね。


「お疲れ様ツムくん、教室行こ」
「ん。(名前)んトコ、最初の授業なんや?」
「えっと……家庭科。調理実習でパスタ作るよ」
「ええな〜……あ、どうせ食べんの2時限目やろ?今日から体育、グラウンドでやんねん!食べに行こ」


確かに家庭科室はグラウンドに面してはいるよ?でも授業を抜け出すなんて難しいと思うんだけれど。
――……なんて考えていたのも、先生の話を聞いていた時までで、調理が始まってしまった今、ツムくんとの会話は忘れていた。
完成したパスタを前に、頬いっぱいに詰めて食べているサムくんを眺めながら、少しずつ減らしていた時、室内に黄色い声が上がった。
サムくんと顔を見合わせて、その声の発信場所を探していたら、窓ガラスに張り付くツムくんを見付けてしまった。


「(名前)〜!」
「えぇ!ツムくん!?」
「いま俺、試合ないねん。自由やからほんまに来てもうた!(名前)の食わせて」
「……もう。内緒だからね?はい、あー……ん」


ツムくんは、本当に有言実行をしたみたい。
近付いた時にちょうど先生が席を外したのも見えていたらしく、作ったパスタを口を開けて催促してきた。
私も先生がいないこのタイミングをいい事にパスタをどんどん食べさせていく。
「うまっ!」と言いながら食べてくれるツムくんは、……接している限り、朝の調子の悪さはなさそう。
ツムくんの口元についたソースを指で拭うと嬉しそうに笑ってグラウンドに戻っていった。


「今日の(名前)は侑贔屓じゃん」
「だってツムくん調子悪かったんだもん。放課後までにどうにかしないと爆発しちゃうかもだし」
「そうなの?治は気付いた?」
「俺がそこまで見てる訳ないやろ。……(名前)、俺も今のでめっちゃ調子悪なった。ぎゅーして」
「もう……サムくんがそう言う時ってだいたい調子悪くないよね」


残ったパスタをフォークに絡めていると、横から突進されるようにサムくんに抱き着かれる。
しかもソースを付けたまま顔を寄せて来るから、それはちょっと……と思い、ティッシュで口を拭いたら大人しくされるがままになった。
そこまでは良かった。
……教室に戻ってからも、サムくんはぴたりと体を寄せてきた。
何も言わずに、ただじっと、私の真横にいて私を見ている……その視線が痛い。


「…………サムくん、今日はダメ。明日いっぱい贔屓する」
「嫌や。今いっぱい贔屓して」
「!?……っ、ちゅーしちゃダメ」
「ええやん。(名前)が構ってくれへんのが悪いんやで」
「だからって、いま授業中だからっ!」


いくら小声でやり取りをしていたって、前に座る角名くんたちには聞こえているかもしれない。
会話は良いとしても、見られてないとしても授業中にちゅーしてくるなんて……!
……朝練で私が考えた贔屓作戦は見事に新たな問題を作って失敗に終わりそうだ。
ツムくんの調子は良くなった代わりに、サムくんがダメになりましたなんて、それは絶対にあってはならない。
教室にいる時はいつも通りに過ごそう。


「分かった。ちゃんとサムくんも贔屓する」
「俺を、贔屓してや」
「……ツムくんがいない教室ではサムくんを贔屓する」
「ねぇ。2人とも授業終わったけど、いいの」
「良い訳ないでしょ……」


ぎゅっと抱き着いてきたサムくんの腕を撫でながら、角名くんに答えていたら後ろのドアからツムくんが飛び込んできた。
双子が互いを見て睨み合っている。
面白がって「これ、シャッターチャンスだよね?」とか聞いてくる角名くんは無視した。
ツムくんは私の首に腕を回して引き寄せようとしているけれど、私の腕ごと体を抱き締めているサムくんがいるから引き寄せられなくてイライラしているのが分かる。


「今日、(名前)は俺ン事贔屓してるんやと思ててん……ちゃうの?」
「あ……ツムくん、そのつも、」
「(名前)は俺を贔屓しとるから、ちゃいますけど!」
「あ!?お前より俺やろ!」


……私を挟んで掴み合いの喧嘩が始まってしまった。
監督本当にごめんなさい。



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