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発熱大騒動

朝、いつも通りの時間に目が覚めたけれど、どうも頭が痛い。
体も重いし、ぼーっとする。
スマホ片手にリビングへ向かって、お母さんに今の症状を伝えたら体温計を手渡された。


「…………37.8℃」
「あら、(名前)にしては高いわね。今日はお休みして病院に行った方がいいんじゃない?」
「う、ん……そうする」
「じゃあ学校には連絡しておくわね」


えっと、まず北さんに休むって伝えておかなきゃ。
マネージャー、私しかいないから今日は1年生に任せる事になっちゃうけれど、風邪を移すよりはいいよね。
それから……双子にも。
起きてるのはサムくんかな。でも双子とのグループトークに送っておこう。
あとは……、あーだめだ。全然頭が回らない。あ、薬飲まないと。
軽くご飯を食べて、薬を飲み終わった時、不在着信の表示に気が付いた。


「(名前)?大丈夫なん?」
「サムくん、やっぱり起きてたんだね……おはよう」
「おはよう。声がいつもと比べるとふにゃふにゃしとる」
「あー、確かにそうかもね」
「(名前)がおらんと寂しい……せめて顔見たい」
「ダメだよ移したくない、…………ってねぇ、サムくんもしかして今チャイム押した?」
「はよ開けて、(名前)会いたい」


電話越しに色んな音が聞こえるなと思っていたけれど、まさか家に来るとは……。
こんな朝早い時間の訪問客に驚いているお母さんに説明をしてドアを開けると、そこには慌てていたのか、少し崩れた制服を着て立っているサムくんの姿があった。
繋がったままだったスマホを切って、まだ付ける予定のなかったマスクを身に付ける。
玄関先に招き入れると、しょんぼりした顔のサムくんにゆるゆると頬を撫でられた。


「(名前)、顔真っ赤やん……ツラいん?」
「移したくないって言ったのにー。なんで来ちゃうの……」
「俺な、どんなにツラくても(名前)とおったら元気になんねん」
「う、うん?」
「(名前)もツラい時に俺と会ったら元気になってくれると思て来たんやけど、……迷惑やった?」


こてん、と首を傾げたサムくんの表情がだんだんと悲しそうなものになっていった。
わざわざ朝練前のわずかな時間の中、来てくれたサムくんの気持ちは嬉しい。
それに自分には風邪は移らないと思ってるところが、何というかサムくんらしいと思う。
腕を伸ばして触れられる距離まで移動して両手を握り締めたら、大股で距離を縮めてきたから慌てて後ろに下がる。


「やっぱり迷惑やったん?」
「え、違う違う!嬉しかったよ?でも距離詰めてきたから……」
「ええやん。(名前)がマスクしとるし移らんから。なぁ、ぎゅーってしたい」


これ以上は近付いちゃダメって意味を込めて首を横に振っていたら、ドアがいきなり音を立てて開いた。
驚きから全く動けずにいると、目の前にいたはずのサムくんが、ツムくんに変わっていて力強く抱き締められていた。
その状況をようやく理解した時には、ツムくんにマスクを下げられて……ちゅーされていた。
マスクを元の場所に戻されて、私はまたツムくんの胸元に収まる。


「(名前)大丈夫なん!?朝練終わったら看病しに戻って来よか?唇も口ン中もめちゃめちゃ熱かったしほんまに心配や……」
「……あ、ツムく、」
「いっったァ!何蹴飛ばしてくれてんねん!サムっ!」
「いきなり来て何しとんねん!今それで(名前)にダメ出し貰てたんにお前が割り込んで来ておかしなったやん!」
「(名前)ンとこ行くなら起こせや!それに俺が来んかったら今ごろ(名前)襲ってたやろ!俺はサムから(名前)を守りに来ただけやっ!」


……朝から人の玄関で何てやり取りをしてくれてるんだろう。
普段だったら何かしら言っていたと思うけれど、正直いまは立っているのが精一杯で双子に言う余力が残っていない。
ツムくんの腕の中にいる事は分かっているから、ぐったりと寄りかかってしまった。
私の様子がおかしい事に気付いた双子が慌て出して、ツムくんが横抱きにして何かを叫んでいるところまでは覚えているけれど、そこからぷっつりと記憶が途絶えた。


「――…………んっ……いま、なんじ、だろう」


重たい体で寝返りを打って、スマホを見るとお昼を過ぎたくらいだった。
お母さんに「起きたなら病院に行くわよ」と言われて素直に頷く。
病院からの帰宅後、処方してもらった薬を飲んだらまた眠くなって、その眠りに抗う事なく落ちる瞬間、スマホにものすごい数の通知が来ていた事を思い出した。
…………次に意識が浮上した時、誰かの話し声が聞こえて来た気がしてどうにか瞼を開けようとしたら、その声がよりはっきりと聞こえてくる。


「「(名前)っ!?」」
「……え、ど……て、部活は?」
「もうとっくに終わってんで」
「……ずっと眠ったままやったらどないしようかと思ててん。よかった」
「皆から差し入れ預かって来たんやけど、なんか飲むか?」
「(名前)は俺らにしてほしい事ある?あったら言うてな?」


もし私がもう少し体力があって元気だったなら、迷わず双子に帰れと言っていたかもしれないけれど……こうも弱った時に心配されると、隣にいてもらえると、すごく嬉しいと思ってしまっている自分がいた。
ベッドの近くで大きな体を小さくさせて私を見ている双子をぼーっと見つめてみる。
さっきから何も答えない私を見てオロオロし出した双子に片手を差し出したら、いつもなら取り合うのに2人一緒にその手を握り締めてくれた。
……あぁ、朝にサムくんが言っていた事は本当だったかもしれない。


「……サムくんが言っていた事、今ならよく分かるよ」
「?(名前)に何か言うたんかサム?」
「ツラい時に会えたら元気になるって話。移っちゃうかもしれないから追い返さないといけないんだけど、2人がいてくれて今とっても嬉しいの」
「あーッ!(名前)がめっちゃかわええ事言うてる!」
「俺らといて元気になるん?ずっと(名前)の手握ってるからはよ元気になってな」
「うん、ありがと……」


しばらくして、お母さんが私の様子を見に来た時、仲良く手を繋いで3人で寝ていたらしく、回復した時に隠し撮りしたらしいその写真が送られて来た。



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