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チャンスはあげない

休み時間に紙パックの飲み物を買いに行った帰り道、廊下に面している窓から声をかけられて立ち止まる。
教室を覗き込めば、ひらひらと手を振る銀島くんの姿。


「おー(名前)1人か?なんや珍しいな」
「それよく言われるなぁ……銀島くんはもうご飯食べてるの?」
「もう腹減ってしゃあないねん」
「唐揚げ入りのおにぎり、美味しそうだね」


窓枠に腕を置いて、大きなおにぎりを食べている銀島くんを眺める。
眺めながら、私もこの場でパックにストローを刺して飲むことにした。
そこそこ大きなおにぎりだけど、一口が大きいからなくなっていくスピードが早い。
あっという間に食べ終わった銀島くんに拍手をしていたら、背中から覆い被さって私の飲み物を奪う誰か……。


「(名前)は俺より銀を選ぶん?」
「サムくん……ただ話してただけなのに」
「帰り遅いからツムにでも捕まってんのかと思ててん……まさかの銀やったとは」
「部活の仲間と話すくらいええやろ……」
「で、アイツはおらんのか?ええんやけど。(名前)独り占め出来るし」


銀島くんが無言で指差した先をサムくんと見つめると、クラスの女の子たちに囲まれているツムくんの姿。
おぉ……モテモテだ。
教室の真ん中がすごい華やか。
いつも近くで見ることが多いツムくんだけど、やっぱりこうして外から見ているとすごさを実感すると言うか何と言うか……かっこいいと思う。
飲み物を飲みながらぼーっと見てたら、大きな手が私の目元を隠した。


「サムくん見えない」
「……このまま(名前)にツム見せとったらなんやアカン気がする」
「どういう事?」
「ああいうトコ、あんま見いひんやろ?モテてんなあ、かっこええなあって思たんとちゃうの?」
「えっ……っと、お、思いました」
「やから目隠し。あとそんなかわええ顔で見とったらツムがこっちに気付くやん」
「お前らもうチャイム鳴んで?」


銀島くんに言われて、時間を確認しようにもサムくんに目隠しをされている私は何も見えない。
手を外そうにも力が強くて外れない。
しかもサムくんは身動きが取れないのを良い事に、私が持っている飲み物を音を立てて飲み干した。
小さく文句を言おうとした時に教室内から私の名前を呼ぶ声と、机と椅子がガタガタと鳴る音が耳に届く。
サムくんの「ヤバ」と言う声を聞き取った瞬間に体が浮いた。
抱えられて移動しているのが分かるけど、何が起こっているのか状況が分からない。


「ア゙!?待てや!(名前)は俺に会いに来たんとちゃうんか!おい無視すんなっサム!」


……まではツムくんの叫び声は聞こえたけれど、ドアを閉めた音とチャイムで後に続く言葉までは聞き取れなかった。
「え、誘拐?」って聞こえる。言ったのは角名くんだな。
手で目元を隠されたまま抱えられていたらそう見えるよね。
授業中、通知が止まらないスマホの振動をブレザー越しに感じながらどうするか悩んでいたら授業終了のチャイムが鳴った瞬間、サムくんが私の腕を掴みダッシュで教室を飛び出した。


「ちょっ、サムくん!?」
「絶対教室にツム来るやろ。だから逃げんで……とりあえずジュース買いに行こか」


……部活のある放課後まで、昼休みも含めて休み時間ごとに私を連れて教室から逃げ出すサムくんとツムくんの意地の追いかけっこが始まった。



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