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頼ってほしいハナシ

朝、目覚めた時に感じた違和感。
……喉が、痛い。
どうしよう……気を付けて生活していたのに。
私を抱き締めて眠るキヨくんはまだ起きてはいない。
起こさないように腕から抜け出せた時には少しの疲労感。


「……寝てるとは思えない力の強さだった」


寝ているキヨくんをぼーっと見つめていたけれど、マスクを身につけるために慌てて寝室を飛び出した。
パタンと閉まるドアの音に何だか悲しくなる。
キヨくんに何て言えば……。
もし移しちゃってたら、私、キヨくんに申し訳なさすぎて……一緒にいられないよ。
この短時間ですっかり心まで弱りきった私はどんどんマイナス思考に陥って、涙が滲んだ。
手洗いとアルコール消毒をしっかりして朝食の準備をしていたら、寝室のドアが勢い良く開いた。


「(名前)ちゃん……!」
「あっ……キヨくん……おはよう」
「……起こされた記憶ない。何で置いていったの?てか何そのマスク」


喋りながら距離を詰めて来るキヨくんをその場に止めたかったのに、移動が早すぎて後ろから抱き締められてしまった。
ぐりぐりと首の後ろに顔を押し付けてくるキヨくんの名前を呼んだら、抱き締める腕の力が強まっただけで話を聞く気はないらしい。
勝手に起きて一人にした事を怒ってる……。
顔に伸びてきた手がマスクにかかったから、焦って叫ぶようにキヨくんの名前を呼んだら咳き込んでしまった。


「(名前)ちゃん、もしかして体調悪い?」
「……うん……喉痛くて。だから近寄っちゃだめ」
「は?」
「ご、ごめんなさい!ご飯だけでも準備したら、その、」
「違う……!頼れって言ってる」


痛いくらいに抱き締められて、頭をゆっくり撫でられる。
じわりじわりと涙が滲んで頬を伝った。
拭われて名前を呼ばれたけれど、私の口からは「ごめんなさい」の言葉しか出てこなくて……。
頭上からため息が聞こえて、体がぴくりと跳ねた。
体の向きを変えられ正面から抱き締められたから、逃げるように動けば強い力で押さえ付けられてしまった。


「逃げんな……(名前)ちゃん、薬は飲んだの?」
「うん……飲みました」
「朝イチで病院連れてく」
「ひっ、一人で行ってくるから!」


両頬を潰されるように両手で挟まれ、上を向かされた。
キヨくんから無言の圧がすごい……。
距離を取ろうと胸元を押してもびくともしない。
移したくないからあまり接触したくはないのに。
昔からきちんと管理をして過ごしていたキヨくんを知っているだけに本当に申し訳なさでいっぱいだ。
罪悪感で押し潰されそう。
キヨくんの顔を見るだけでまた涙があふれてくる。


「(名前)ちゃん俺のコトばっかり……嬉しいけどもっと頼れよ。俺たち夫婦だろ?何で一人で抱え込む?」
「キヨくん……」
「俺とずっと一緒にいた(名前)ちゃんだから体調を崩したコト、気に病んでる」


キヨくんには私の考えなんてバレバレなんだ……。
小さく頷いたら胸元にすっぽりと収められた。
咳き込んだ私をキヨくんは嫌な素振りなど一切見せず、抱き締めたまま背中をぽんぽんと叩いている。
咳が落ち着いてもなお、あやすように背中をさすっているキヨくんを見上げれば心配そうな顔で私を見ていた。
見つめ合っていたら、すっとマスクが下げられたのと同時に顔が近付いてきて思わず「ダメっ!」って叫べば、凄まじく不機嫌なオーラをまとったキヨくんに睨まれた……そしてだんだんと悲しそうな顔に変わっていく。


「(名前)ちゃんが……俺を、拒絶した……」
「違う!マスクずらしたから……あとキスしようとした……でしょ」
「(名前)ちゃんの顔まだ見てないし、キスもしてない」
「移したくないの、絶対に。だから完全に治るまではダメだよ」
「(名前)ちゃん、薬より俺といたほうが楽になるって言った……生理の時も痛み和らぐって。絶対離れねぇから」


確かに、言った事もあるけども……!
風邪と生理は別だよって伝えても、抱き締めて動かなくなったキヨくんに私の言葉は届いていない。
私だってキヨくんと離れたくないって思ってるんだけどなぁ……なんて考えながら身じろいでキヨくんの背中に腕を回した。
ぎゅーっと強く抱きついてから「ご飯作るね」って言えば、渋々力を弱めて体の向きを変えてくれたキヨくんは頭に顔を置いて体重をかけてくる。


「……病院連れてくから。じゃないと練習行かない」
「脅さないでよー」
「それに(名前)ちゃん一人で行かせたら絶対空き部屋にこもって顔見せてくれなくなる。ご飯の準備だけして俺と会わないようにするだろ」


実行しようとした行動も言い当てられて、冷や汗が止まらない。
いや、正直に言うと治るまで実家にいようかと思ってました……。
無言で料理を進める私を怪しんで顔を覗き込んでくるキヨくんを避けてたら、直したマスクにまた指が引っかけられたから目を合わせれば眉間にシワを寄せた顔が不機嫌そうに見ていた。
ぽつりと謝罪すれば「そうじゃねぇ」と一言で片付けられ、すかさず目元に唇が押し当てられる。
ぐりぐりと顔にキヨくんが頭を押し付けてくるから、当たる髪の毛がくすぐったくて小さく笑ってしまった。


「(名前)ちゃんは俺が看病する。異論は認めないから。大人しく俺に甘えろ」
「うっ……は、い……」
「俺の体調管理を気にしすぎて、自分に目を向けきれなかった(名前)ちゃんに気付けなかった俺の落ち度だ……ごめん……」
「キヨくんが謝る事なんて何一つない!」


髪の毛やおでこ、目元にキヨくんの唇が降り注いだ。
大人しく目を閉じて受け入れていたら、マスク越しに感じた熱に慌てて体を押し返せば、それすら閉じ込めるように抱き締められてさらに強く唇が押し付けられた。
ダメなのに……やっぱり嬉しいと思ってしまった私を今だけはどうか許してほしい。



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