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遭遇したハナシ

「キヨくん荷物持ってくれてありがとう」
「……うん。(名前)ちゃんの大事な下着だから」
「あ、うん……そっか」


そんな事を言いながらも、人の多さから眉間にシワが寄っているし周りを見る目は眼光鋭い。
それでもわざわざ買い物に来たのはキヨくんに「……(名前)ちゃん、胸大きくなった?」って指摘されて、正直に少しきつくなった事を話したからで……。
車で連れ出され、お店で測ってもらったらやっぱりサイズアップしていた事を伝えれば、あのキヨくんが積極的に店内を見て回り、私の下着を選んでいた。
そして笑顔で店員に見送られた私たち……キヨくんの口元はマスクで隠れているけれど、どことなくほくほく顔をしているように見える。


「(名前)ちゃんがつけてるの早く家で見たい」
「今度、ね……色々買ってくれてありがとうキヨくん」
「俺のためでもあるから。……試着続きで(名前)ちゃん少し疲れが見える。どこかで休んで帰ろう」


あぁ……やっぱりキヨくん、テンション上がってるんだ。
休んで帰ろうだなんて珍しい。
キヨくんとデートの時間が続くのは嬉しいからいいのだけれど。
カフェに入ってのんびりしていたら、たまたま通路を挟んで向かいの席に案内されている人を見てしまって、驚いた。
……あの鮮やかなオレンジ髪の人って、もしかして……!
目の前に座るキヨくんは周りに目をやる事などなく、ただひたすらに私を見ている。
テーブルの上で絡んでいた指に力をこめ、キヨくんに視線だけ動かして「隣を見て」と伝えた。
嫌そうに眉間にシワを寄せたけれど、やっと折れたキヨくんがちらりと隣に顔を向けた。


「……は?日向……!」
「エッ!?臣さん!」


やっぱり、キヨくんのチームメイトの日向くんだ。
公式サイト眺めてて良かった……!
日向くんは混乱した様子でキヨくんと私を何度も交互に見てから、じっと私を見つめてきた。
キヨくんに握られている手が痛い。
これは帰ろうアピールされている。
せっかく会えたから挨拶したいな……。
でも、3人もいて誰も喋り出さないこの空間をどうしよう。


「あッ、あの……!俺、日向翔陽です!臣さんと同じチームです!」
「あっ……!い、いつも主人がお世話になっております。妻の(名前)です」
「臣さんの!奥さん!」


やっと……やっと言えた……!
キヨくんがするりと私の指環を撫でる。
視線を戻すと複雑そうな表情の中に、わずかに嬉しそうな雰囲気が見え隠れしていた。
主人とか妻、って言葉……言われるのは嬉しいらしい。
そんなキヨくんを見ていたら、隣から突き刺さる視線が気になって思わず苦笑いを浮かべてしまう。
……日向くんが何だかキラキラした目でずっと見てくる。


「おい……(名前)ちゃんのコト見んじゃねぇ。反対向いてろ」
「いつも臣さんの弁当、バランスとかすごいなって見てました!アレ、手作りですよね!?俺も栄養学とか本で勉強はしてて……だから尊敬します!」
「あっ、ありが、」
「(名前)ちゃんが俺のために考えて作った弁当、勝手に見んじゃねぇ」


お礼言おうとしたら、遮られちゃった……。
キヨくんはテーブルにある伝票を取ろうと手を伸ばしたけれど、その手を握って待ったをかける。
不機嫌そうな表情で私を見てくるキヨくん……でも私が握った手をしっかりと握り返してくる辺り、もう少しお話したいってお願いを聞いてくれるかもしれない。
家にいない時のキヨくんの事を知りたいから日向くんと話したいって言ったら、無言で首を横に振られた。


「キヨくん、お話したい」
「俺と話せばいいだろ。別に日向と話す必要はない」
「臣さん!あのっ、」
「うるさい」


今度こそ伝票を手に取ったキヨくんに連れられ、お店を後にした。
ぎゅうっと繋がれた手を引かれて歩いていれば、日向くんが追いかけてきた。
キヨくんが睨むけれど、慣れているのか動じない日向くんに少しの感動を覚える。
追いかけてきたのは、私に聞きたい事があったからだったみたいで……キヨくんの食事に興味があるらしい。


「普段どんなもの食べてるんですか?臣さんの背が高いのもやっぱり食事のおかげですか?」
「んー……キヨくんの背が高いのは遺伝かも。バレー選手だし体が資本だから気にかけてはいるけど、ご飯はね、」
「(名前)ちゃんもういいだろ」
「俺でも作れるものとかありますか?あ、連絡先交換したいです!」


日向くんが取り出したスマホをパシッと弾いたキヨくんに、頭を抱えられて体に押し付けられた。
……家に帰るまでにキヨくんの機嫌、直ればいいなぁなんて思いながら2人の会話に耳を傾ける。
結局、連絡先の件はキヨくんが断ってなくなった。
それから、チームの皆に自慢するという言葉の後に聞こえたシャッター音。
物言いは相変わらずだけれど、日向くんとは何だかんだで仲がいいらしい。
私の知らないキヨくんの一面が見えたから、やっぱりもう少し日向くんとお話したかったな。



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