夢のあとさき
48

しいなが契約するのを待ってくれていたミズホの里の民、おろちによるとレアバードは南東のフィヨルドの地にあるらしい。そこにトリエットのようなレネゲードの基地があるのだろうか。おろちは先に行って侵入の手はずを整えると告げると去ってしまった。
ひとまず、雷の精霊との契約を終えて疲弊した体を休ませるために野営することになる。私はロイドとは顔を合わさずに黙々と魔物を屠り、焚き火の準備を整えた。
「レティちゃん、荒んでるなあ」
「ゼロス」
しいなにちょっかいを出しに行っていたゼロスがみんなにあしらわれて今度は私に声をかけてきた。しいなに関しては私もどう声をかけていいか分からずそっとしておくことにしている。本当はいつもみたいに話しかけられればいいんだけど、その余裕が自分にないからだ。
「さっきはありがとう」
引っ込みがつかなくなっていたので本当に助かった。ゼロスに言うと肩を竦められた。
「どーも。レティちゃん、案外ロイドくんと喧嘩慣れしてないみたいだな」
「ロイドと?……そうだね。あまり喧嘩はしたことないかも」
基本的に私はロイドのしたいようにさせていたので、喧嘩というほど喧嘩的なものをしたことがなかった。手合わせは何度もしたけどあれはまた別だろう。
「そうなんだ。でも、なんか安心したわ」
「何が?」
「ロイドくん目標はあっても先走ってる感じがしたからさ。レティちゃんがガツンと言ってくれてよかったっつーか」
「はは。ゼロスはそんなこと思ってたんだ」
確かに、私だけではなくみんなロイドに甘いところがある。――例外は、クラトスくらいだっただろう。
それはみんなロイドに甘えているからだとも思う。ロイドの理想に、ロイドが差し伸べてくれる手に。みんなロイドに救われてきたのだ、だからロイドの言葉が心地よい。
思考の停止とは違うけれど、疑問を浮かべることを止めるのはただの追従だろう。それではいけないのではないかと思う。ゼロスがみんなとは違うのはまた別の思惑を持っているからだろう。
そんな思惑を持つゼロスは同時に警戒対象でもある。けれど、ロイドはゼロスを疑うことをしない。私はどうだろうか。
「ゼロス、ひとつお願いがあるんだけど」
「ん〜?なになに?」
「このあとレネゲードの基地に向かうでしょう。そのとき、私が――捕らえられたら、ロイドにこれを渡してほしい」
ゼロスに手渡したのは鉱山で手に入れた抑制鉱石だ。それに、紙の切れ端に書いたメモもつけておく。
ゼロスは怪訝な顔をしていたので慌ててフォローもしておいた。
「もちろん、捕まる気なんかないけどね。でも一番狙われるのは私だと思うから、念のため」
「俺さまでいいのか?」
「だって他の人に渡したら多分怒られるもん」
リフィルは黙っててくれるだろうけど絶対怒る。しいなとジーニアスも怒ってすぐロイドに言うだろう。プレセアとリーガルに関してはまだ信頼しきれていないところがあった。
つまり、ゼロスが最適なのだ。
「わかったわかった。レティちゃんが捕まらなかったら返すかんな」
「うん。お願い」
ゼロスが了承してくれてほっとする。重荷が一つ下ろせた気もした。こんなことを頼むのは悪いと思っていても、彼に任せてしまうのは甘えなのだろうか。
「ゼロスはさ、きょうだいいる?」
ふと気になって聞いてみる。すこし間を置いてゼロスは答えた。
「妹がな。修道院にいるから屋敷にはいなかったが」
「へえ、お兄ちゃんなんだ。だからかな、面倒見がいいね」
「レティちゃ〜ん、そりゃ妹がいるせいじゃねえよ。俺さまが女の子を愛してるから♥だぜ」
「はいはい、そういうことね」
ゼロスの調子が出てきたのであしらっておく。なんというか、そういう惚れた腫れたは苦手だった。たぶんユアンのせいだろう。しいなのような潔癖ではないが嫌悪感が先立ってしまう。
だから異性でも兄のような存在として接した方が気が楽だと思ったのだが、ゼロスはこんな調子だから無理だろうな。私は小さく溜息をついてパチパチと音をたてて燃える炎に目をやった。


翌日、レネゲードの基地へと海路で向かった。小さな島や氷河が浮かぶ入り組んだ場所への進入は手間取ったが、どうにか入り口までたどり着くことができた。
「こっちだ!」
既に侵入の手はずを整えていてくれていたおろちの案内で基地内に無事辿り着く。レネゲードにもミズホの民は潜んでいるのか。しいなの召喚の能力といい、ミズホの民の能力は貴重なものだ。味方になってもらえて本当によかった。
おろちの説明によると、レアバードの格納庫への道は一本しかないがそのロックを解くにはパスコードが必要らしい。そのパスコードは三人のレネゲードが管理しているので、それを聞きだしてくるのが私たちの役割でもある。まあ、穏便に済まそうと思ったらパスコードを聞きだすのにどれだけ時間がかかるかわからないし。
おろちはもう一つ、レアバードは現時点ではエネルギー供給をされていないためシルヴァラントへの飛行は現時点では不可能であることを教えてくれた。ヴォルトがいるのだから飛行には問題はないはずだから今は文句を言うまい。
私たちはひとまずパスコード集めに奔走することになった。


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