夢のあとさき
49

「飛んで火にいる夏の虫とはことのことだな!」
パスコードのロックを解除して進んだ先の格納庫にいたのはユアンとボータだった。もう逃げられまいと囲んでくる二人にロイドは眉を上げた。
「相変わらずあたりまえのことしか言わねぇやつだな」
「う〜む。確かに今時、その台詞はどうよ?」
ロイドに便乗するようにゼロスも言う。それが気に障ったのかユアンは大振りのダブルセイバーを構えた。
「相変わらずふざけた奴らだ!しかし減らず口もここまで!覚悟しろ!」
それを前衛のロイドとゼロスが受け止める。私はその隙に後ろで術を唱えるボータへと迫った。
「ハアッ!」
防がれても構わない。目的は術の中断だ。私はすかさずバックステップして、その間にジーニアスの魔法が降り注ぐ。
「ライトニング!」
ジーニアスも魔法のタイミングが上手くなった気がする。後ろに下がっていた私は壁を蹴ると上からボータに斬りかかる。
「ふっ!」
「ぐう……ッ」
とにかくこちらの方が人数が多いのだから、ユアンとボータを分断してヒットアンドアウェイでいくのがいいだろう。連携されてはかなわない。
ユアンはロイドたちに任せながら、私と入れ替わりに前衛に出たプレセアが斧を振り回すのを見つめる。彼女の攻撃のほうが大振りなのだから、それを補う形で攻撃するのがいいだろうか。
「レティシア!ユアンさまとの約束を違えるというのか……!」
「……」
ボータの言葉が突き刺さる。なんとも返事ができない。
トリエットの基地で逃げたときはある意味不可抗力だった。山岳ではクラトスが間に入ってあやふやになった。今回は――自分の意志で逆らっている。ロイドと約束をしたからというのもある。
一つ、気にかかることがあってそのせいで私ははっきりとした返事をボータに返せないでいた。
その間も戦闘は続き、無事彼を撃破することができた。ユアンも見るとロイドに敗れたようだった。
「……馬鹿な!この私が……負けるだと?ロイド……おまえのエクスフィア、まさか本当に進化しているのでは……」
「俺の……エクスフィア?」
ユアンの言葉が気にかかる。進化とは、ハイエクスフィア――クルシスの輝石に?問いかけようとしたとき、ふいに地面が揺れた。
「なんだ、この揺れは!?」
ユアンが困惑したように叫ぶ。これは彼が仕組んだものではないらしい。
「ロイド!これぞ神の好機!今のうちにレアバードを奪おう!」
リーガルに呼びかけられてロイドもハッと我に返った。私もレアバードに乗り込もうと駆けだしたところで、体が急に痺れたように動かなくなる。気づけばその場に崩れ落ちてしまっていた。
「……ッ!?」
「姉さん!」
真っ先にレアバードに乗り込んでいたロイドが私を振り向く。咄嗟に叫んでいた。
「早く行きなさい!」
私の腕を地震の衝撃から立ち直ったユアンが掴んだのが分かる。ここで人質になんて取られてみんな捕まるのは最悪のパターンだ。
コレットには時間がない。早く取り戻さなければ、最悪マーテルの器にさせられてしまう可能性がある。
「あなたはコレットを……!」
「でも!」
「ッ、いいから、行け!ロイド!」
リフィルにアイコンタクトを送ると彼女はすかさずロイドをレアバードに押しこんでくれた。そのままみんなの機体が発進するのを見送る。もう大丈夫だと思ったところで力が抜けて、今度は体ごと地面に倒れてしまう。
「なに、を、した……ユアン」
私の腕を掴んだままのユアンを見上げる。もう片方の腕に嵌ったままの腕輪をユアンは見下ろした。
「その腕輪の機能だ。痺れて動けなかろう」
「……、こわれたと、思ったんだが」
「壊れたのは追跡装置だけだ」
そうだったのか。さっさと外してしまえばよかったと思っても後の祭りだ。だいたい、がっちりと嵌っていてどうしても抜けないのだ。盛大に壊して取り外すしかなかっただろうがそれも難しいし。
「ユアンさま、今の地震はまさか精霊の楔が抜けたのでは!」
「かもしれん。今の地震について調査しろ!大至急だ!」
ユアンとボータがそんなやりとりをしているのを朦朧とした意識で聞く。このままだと意識を手放してしまいそうだったが、思考でどうにかつなぎとめる。
「せいれいの……くさび……、じしんが……」
「レティシア、おまえたちの仕業か」
「……けいやくをした、から。マナのながれが、ぶんだんされたと……」
不意に体が浮く。どうやらユアンに抱えられているらしい。しばらく歩いて運ばれた先はベッドのある小部屋だった。
「詳しく聞かせてもらおうか。――このことについても」
ガシャンと音がして腕輪が外される。
その下には、真っ赤に焼け爛れた皮膚があった。


- ナノ -