鬼と人【霜惺】



小さな体が宙を舞う。


そのまま少年は背を地面にぶつけた。


それでもまだ足りないというように、彼の体は鋭い爪に刺された。


「霜惺っ!!」


たまりかねた彼の父親が、涙を必死に堪えて彼の名を叫ぶ。


「・・・っ!!」


声にならない悲鳴を上げて霜惺は地面に落下した。


軽く地面を跳ねた身体を押さえ込むようにして鋭い爪が霜惺の肩を貫いた。


「あああああっ!!」


勢い良く爪を引き抜くと、霜惺の式―――咏鬼はようやく霜惺から離れて動きを止めた。



「―――その程度か」


低い声が耳に響く。


「貴様はその程度なのか」


ぴくり、今まで全くと言って良い程動かなかった霜惺の指が動いた。


しかし、あまりの怪我に起き上がることはできない。


「・・・っく」


ようやく重い腕を持ち上げて彼は目元を隠した。


それを見て咏鬼は衣を翻して姿を消した。


声を掛けようか迷っていた彼の父もやがて邸へと入っていった。


誰もいなくなったのを見計らって彼は泣いた。


「・・・くっ・・・、っ・・・うっ・・・」


齢十。


この歳で式を従えて、陰陽師を目指すなど、並大抵でない事は分かっていた。


それでも悔しさが彼の胸を埋める。


強くなりたい。


守れるような強さを身に着けたい。


陰陽師になりたい。


今まではなりたくないと思っていたが、今は違う。


陰陽師になるために少しずつではあるが努力はしている。


ぎゅっと拳を握り締めると彼は思いっきり地面を叩いた。


「絶対っ、絶対・・・陰陽師になってやる・・・っ!!」






鬼と人【終】




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