儚き華、陰陽師01






蝉が鳴いている。


春も過ぎ、いよいよ初夏がやってきた。


気だるい体を引きずるようにしながら霜惺は陰陽寮へ向かって歩いていた。


彼の疲労の原因は夏の暑さだけではない。


霜惺は、数いる陰陽師の中で知る人ぞ知る凄腕陰陽師である。


しかし、彼の本当の実力を知る者はいない。


それは彼が出世を嫌っているからである。


陰陽師になると言って式を従えてから早十二年。


今、彼は二十二だ。


「いでっ!?」


そろそろ意識が朦朧としてきたな、なんて考えながら歩いていたら頭を柱にぶつけてしまった。


ぶつけた頭に手を添えて痛みを堪えていると、不意に聞きなれた声が聞こえた。


「だーかーらー」


「だから?」


「最近、貴族の姫君が妖怪に拐われているらしい」


貴族の姫君が。


それは大変だな、とぼんやりする頭で考えなからふと、霜惺は勢い良く顔を上げた。


「貴族の姫がっ!?」


「うわっ、何だ!?って、なんだ師匠じゃないですか。脅かさないでくださいよ」


突然柱の影から姿を現した霜惺に龍作はあきれ混じりに溜め息を吐く。


「そんなことはどうでもいい。それよりも貴族の姫がなんだって!?」


龍作の元まで駆け寄ると、霜惺は勢い良く彼の肩を掴んだ。


「いたたたたっ。だから、貴族の姫が妖怪に拐われてるらしいって舞が・・・」


「また桜木の姫か。余計な事を。悪いがこれは私の依頼だ。お前達は手を出すな」


「は、はあ・・・。じゃあ、舞にもそう言っておきます」


「ああ」


ふう、と息を吐いてそのまま立ち去ろうとする霜せいを龍作が呼び止めた。


「師匠?どこか具合でも悪いんですか?」


「・・・そう見えるか?」


ぎろりと睨まれて龍作の顔が引きつる。


「え、あ、いや。ほら、いつも顔を合わせる度に小言を言われるから。なんていうか・・・」


「それはつまり小言が欲しいということかい?」


「違います!」


「なら、しばらくほっといてくれ」


唖然とする龍作とその式、青風を置いて霜せいはふらつく足取りで陰陽寮へ向かった。




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