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「・・・姫よ、すまなかったね」


そう言って帰ろうと踵を返すと不意に袖を捕まれた。


「・・・・・・貴方様は、陰陽師なのですか?」


「・・・いかにも」


「では、では・・・貴方様にも見えているのでございましょう?私が、あの家に破滅をもたらす未来が・・・」


「・・・!?」


何だそれは?と霜惺は驚愕した。


「姫よ、それはどういうことだね?」


「え・・・?」


「それは、誰かにそう言われたのかね?それは一体誰だ?」


霜惺は今まで見たことがないくらい怖い顔をしていた。


霜惺の様子を見て雪音は困惑した。


「・・・わ、かりま・・・せん。ただ、陰陽師と」


「陰陽師・・・術者か!!術者は陰陽師だったのか!」


その瞬間、霜惺の脳裏にある仮説が浮かんだ。


術者、いや、その陰陽師は中納言邸である予言をした。


その内容は雪音が中納言家を破滅に追いやるというものだ。


中納言殿は野心をお持ちだ。


自分の出世に雪音が邪魔だと判断した。


そう考えて霜惺ははっと目を見開いた。


そして恐る恐る雪音を振り返る。


まさか、と思って。


こんな悲しいことがあるか、と。


まさか姫は、知っているのか。


自分が自らの父に切り捨てられたことを。


そして、妖怪に襲わせたのも恐らくその術者か中納言殿だろう。


術者と中納言殿が繋がっているかもしれない。


しかし、そこまで考えて一つ分からないことがあることに気がついた。


ーーーなぜ、自分に依頼をしたのか。


「ーーー永鬼」


霜惺は静かに自らの式の名前を口にした。


「ーーー良いのか?俺が姿を見せても」


「構わない」


霜惺がそう言うと永鬼は音もなく姿を現した。


突如現れた鬼に雪音は目に見えて怯えた。


怯える雪音の肩を霜惺はそっと両手で包む。


「ーーー術者を捕まえる。永鬼、術者の居場所を突き止めろ」


「弟子に頼んでいたのではなかったのか?」


「状況が変わった。そんな悠長な事は言っていられなくなった。それから、中納言殿におかしな動きがないか調べてくれ」


分かったとうなずくと永鬼は姿を消した。


「・・・噂は、本当だったのですね」


「鬼と契約した、という噂かい?そうです・・・私は鬼と契約しています。ーーーお父上に伝えますか?」


「そんなこと致しません・・・!」


静かに涙を流す雪音を霜惺はそっと抱き締める。


「貴女は、全てご存知だったのですね。一人で抱えて、辛かったでしょう」


「貴方を、巻き込んでしまった・・・!」


「いいえ、むしろ私は自ら飛び込んだのですよ。本当は面倒に巻き込まれるのが嫌で出世から外れてたのですが・・・これなら変わらないですね」


「姫よ、ここから先は私が独断で行うこと。ーーー私を恨んでも構いませんよ」


「え?」


「貴方を、菅貫家に迎えたい」


雪音の頬を涙が伝う。


「だめ・・・お願い、手を引いて・・・」


「ーーー姫よ、私はお父君の思惑に自ら乗るのです。貴女が気に病むことではない。貴女が・・・私を好いてくださるなら、ですが」


「だめです・・・そんな・・・それに、私は穢れた身・・・こんな・・・!」


不意に、霜惺は雪音の腕を掴んで引き寄せた。


そして、その唇に自らのを重ねる。


一瞬の出来事だった。




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