15
「貴女は穢れてなどいない」
雪音は両手で顔を覆ってその場に静かにしゃがみこんだ。
そっと手を伸ばしかけ、しかしそれ以上触れることはせず霜惺は後ろ髪を引かれる思いを振りきるようにしてその場を後にした。
桜木邸を出ると隣に永鬼が降り立った。
「ーーー術者を見つけた。お前の弟子が今退治しているぞ」
「なにっ!?場所は!?」
「先日の洞窟のある山だ」
「分かった」
そう言うと霜惺は走り出した。
「ーーー・・・ああいう女が好みなのか?」
突然の永鬼の問に霜惺は目を見張った。
ーーーこいつ、見ていたのか。
「さあね、少なくとも桜木の姫とは真逆の方がいいかな」
「同情で一緒になれるほど甘くはないぞ、あの家は」
「はっ、同情?まさか。私と一緒になって可哀想なのは姫の方だ。私はこの血が絶えることを望んでいる。子孫を残す気はないんだ。だから結婚なんて一生しないつもりだったさ」
「なら……」
「あのまま放っておいたら確実に姫は死ぬ。殺されるまでもなく自らまた死のうとするだろう。私は、姫に死んでほしくないと思った。思ってしまった。これが恋か?」
「それが恋かと問われれば違う気もするが……お前がそう思うならそうなのではないか?」
「そうか……。破滅か……案外似合いなのかもしれないな」
家に破滅をもたらすと言われた姫と、家を破滅へ導きたい陰陽師。
恐らく、幸せにはしてやれないだろう。
それでも一緒にいたいと思ってしまった。
思ってしまったんだ。
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