13

 


邸の奥から舞姫が馬に乗ってきた。


どうすればいいのかとおろおろしていると舞姫は馬上から飛び降りて馬上に乗せてくれた。


その後ろにひらりと飛び乗った様は先程乗せてくれた時と言い、同姓ながら惚れ惚れする美しさとかっこよさだった。


「さ、行くわよ」


舞姫がそう言うと馬はゆっくりと歩き出した。





* * *




「ここから先は歩きね」


どれくらい遠くまで来たのだろうか。


辺りは一面草木が生い茂っている。


舞姫は森の入り口の適当な木に馬を繋ぐと手を差し伸べてきた。


「もうすぐだから」


手をひかれながら歩いていくと、先に少し開けた場所があるのか光輝いていた。


森を抜けると、不意に開けた場所になり、そこは辺り一面花が咲き誇る場所だった。


「綺麗でしょう?」


そう言って舞姫は花畑に掛けていき、不意に寝転んだ。


慌てて追いかけていき、寝転ぶ舞姫をのぞく。


「ーーー貴女、妖怪に襲われたんですってね」


目を閉じたまま舞姫ははっきりと聞こえる声でそう言った。


「ーーー大丈夫よ。貴女の中には何も残っていないわ。昨夜貴女が眠っている間に私が浄化したから」


「浄化・・・」


「私には、穢れを浄化する力があるそうよ」


「・・・・・・本当に?」


「心の傷までは治せないけれど・・・貴女が恐れているような事は起きないわ。大丈夫、貴女は綺麗よ」


彼女の頬を静かに涙が伝った。


「・・・それでも、まだ辛いなら・・・その先は陰陽師に頼りなさい」


「陰陽師・・・」


「霜惺は、優しかったでしょう?」


「彼は・・・陰陽師なのですか?」


「ええ、それもとても優秀な陰陽師よ」


「優秀・・・」


なら、これ以上彼に関わってはだめだ。


「・・・全く、何をやっているのだね?」


不意に、ここ数日聞きなれた声が背後から聞こえた。


驚いて振り替えるとそこには今正に話をしていた人物が立っていた。


「霜惺・・・さま」


「名前を覚えてくださったのですね、姫」


そう言われて彼女はどきりとする。


そう言った彼はひどく優しい笑みを浮かべていたから。


「姫よ、差し支えなければ名をお伺いしても?」


「・・・ゆ、雪音と申します」


差し出された手に手を伸ばして彼女、雪音は顔をうっすらと紅潮させて下を向く。


ここ数日知り合ったばかりだと言うのに命の恩人だけらだろうか彼がそばに来たらなんだか少し落ち着いた。


「まだ病み上がりだというのにこんなところまで連れ出して・・・昨日馬と言っていたからもしやと思って来てみれば・・・君は邸で大人しくしていられないのかね?」


「あーあーあー、説教なんて聞きたくないわ」


舞姫は耳を押さえて聞きたくないと言う風に首を振る。


そんな舞姫を横目に見ながら霜惺は雪音を促す。


森の入り口に戻ってくると、来たときには一頭だった馬が二頭になっていた。


霜惺は雪音を自分の馬に乗せると自らも後ろに乗った。


「そっちに乗せるの?」と舞姫が聞いてきたが何か問題でも?と霜惺は返した。


舞姫が先頭を行き、その後ろを霜惺達が着いていく。


雪音が馬上に慣れ始めた頃、不意に、耳元に霜惺が顔を寄せてきた。


「ーーーあれは、ご自分でお飲みになったのですか?」


雪音の肩がびくりと震える。


次第に可哀想な程蒼白な顔になり、体を震わせた。


霜惺のいうあれとは先日まで寝込む原因となった毒についてだ。


雪音の態度を見て霜惺はーーーやはり、自分で飲んだのかと結論付けた。





* * *



邸に着くと、舞姫は馬を戻してくると言って姿を消してしまったので霜惺が雪音を室まで送ることにした。


ずっと怯え、思い詰めた様な顔をさせてしまったことを霜惺は気にしていた。


ーーー上手く行かないものだな。




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