12

 

半ば無理やり連れ出してしまった事を霜惺は反省した。


というかさせられた。


桜木の姫に。


経緯を話すと彼女ーーー桜木舞は「はぁぁ?」と怒りを露にして胸ぐらを掴みあげてきた。


「何でも思い通りなるなんて思わないでよね?」


「離したまえ。その言葉、そっくりそのまま返すよ」


「協力するんじゃなかった」


「いや、その件に関しては感謝しているよ。ありがとう、助かった」


「・・・な、な、なによ急に」


「ーーー彼女から目を離すな」


「なんでそんな命令されなきゃならないのよ!」


「彼女が自ら毒をのんだ可能性があるからだ」


「ふぅん・・・毒、ね。ねえ、あの人なんて名前なの?」


「さぁ?」


「さぁ?って知らないの!?呆れた・・・」


「それどころではなかったのだよ・・・」


「あっそ。ねえ、何しても良いの?」


「いや・・・できればさりげなく事情を探って欲しいのだがね、きみに、私は」


「事情ねぇ・・・あ、そうだ、馬を借りましょ」


「・・・は?馬?」


舞姫は口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。



* * *



朝日が登り始めた頃、御簾を上げる様な音がして目を覚ますと、桜木の姫がいた。


「ごめんなさいね、朝早くに。どうしても人が少ない時に出たくて」


「・・・あ、あの・・・突然すみません。貴方にまでご迷惑を・・・」


「ああ、いいのよ。気にしないで。むしろ嬉しいわ」


そう言って彼女は着物を取り出した。


「確か・・・笠もここに・・・あ、あった!」


「・・・?」


何をしているのだろうと首を傾げていると不意に舞姫は着物を脱ぎ始めた。


「な、なにを・・・」


「ごめんなさい、ここに隠していたのを忘れていたの。貴女は・・・そうね、少し動きやすい方がいいわね」


言いながら舞姫は男性ものの狩衣に着替えると髪を頭の上の方に一つにまとめた。


結んでいるとはいえ貴族の姫の長い髪が床から離れた位置にあるのを見てわざと短くしているのかと思った。


「旅装束で悪いけど・・・これに着替えてくれる?あ、一応、笠も被ってね」


「はぁ・・・」


「あ、そうだ。ずっと体調が悪かったって聞いているのだけど・・・大丈夫かしら?一番大人しい馬を拝借してきたつもりだけど・・・」


「えっと・・・どちらに?」


「良い所よ」





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