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程なくして龍作が中納言邸を訪れた。


「・・・桜木の姫は何と?」


霜惺が聞くと龍作は少し困ったような顔をした。


「舞は良いってさ・・・」


「そうか、それは良かった。では行くぞ」


「・・・はい」


龍作が逃げないようにたたみかける霜惺に龍作は何とも言えない様な苦い顔をした。


彼は交渉の場等、武芸とはかけ離れたことが苦手だった。




* * *



「ーーーして、話とは?」


「この者は私の弟子をしておりますーーー橘龍作というものです」


霜惺に紹介されて龍作は頭を下げる。


「は。橘龍作と申します」


「確か橘殿の嫡男だったか・・・」


「ーーー中納言様は桜木の姫をご存知でしょうか?」


「存じておる。この都で知らぬ者はおらぬだろうな」


「実はこの者、その桜木の姫の話役、相談役のようなものをしておりまして・・・姫の話をしたら桜木の姫は大層胸を痛めた様子で・・・しばらく桜木邸にお呼びすることはできないかと」


「ほぅ・・・桜木邸に」


「桜木の姫は妖を恐れぬ方。姫も心強いのではないかと・・・それに、桜木邸は私の弟子もよく警護しておりますので・・・」


「この邸にいる方が危険だと?」


「ーーーは」


「しかし、こう言ってはなんだが・・・そちらの弟子はあまり名を聞かないが」


本当に優秀か?と彼は言いたいようだった。


龍作は「ははは」と乾いた笑いを浮かべたがそれを見た霜惺は黙っていろと睨みを効かせた。


「では、私も警護に当たりましょう」


霜惺がそう言うと中納言が扇の下で満足そうに笑みを浮かべた様な気がした。



* * *



「ーーー・・・と、いうわけでして・・・姫にはしばらく桜木邸に身を寄せていただきたく」


夜半過ぎ、霜惺は件の姫の元を訪れていた。


姫は儚げな面差しを曇らせて少し困惑ぎみに口を開いた。


「・・・一昨日も、助けていただいたそうで」


「・・・」


「どうして、ここまでしてくださるのですか?・・・来てはいけないと申したはずですのに・・・どうして、また来てしまったのですか・・・?」


姫は両手で顔を覆って泣き出してしまった。


「今からでも遅くはありません・・・私のことはもう放っておいてください」


「ーーーそれは、無理でしょう」


静かに頭を振って霜惺は否定する。


「私は、もう既に目を付けられている。いや、もしかすると最初に依頼をされた時から」


霜惺の言葉を聞いて彼女の顔がさっと青ざめた。


「貴女の前でお父上を悪く言うつもりはありませんが・・・あれは野心を宿した者の目です」


「私のせいで・・・ごめんなさい」


「謝る必要はありません。私は、ただ・・・貴女を放っておけないだけですから。では、一緒に桜木邸へ来ていただけますか?」


「・・・はい」



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