08



次の日、霜惺は弟子である橘龍作を邸に呼び出した。


ぱちん、ぱちんと扇を閉じたり開いたりしていると龍作は次第にどんどん縮こまっていった。


どうやら説教をされると思っているらしい。


説教など毛頭する気はないのだがそいいう姿を見ていると、つい、意地悪をしたくなってくるというものだ。


ぱちん、と一際大きな音を立てて扇が閉じられた。


「ーーー何故呼ばれたかは分かっているな?」


霜惺は扇を開いて口元を隠しながら剣呑な目をして龍作に問う。


呼ばれた理由など分からないはずなのに龍作の肩がびくりと跳ね上がる。


「・・・勝手に調べ回ったからです、かね?」


「・・・・・・は?」


予想とは違った答えに霜惺の目が本気で剣呑になる。


「貴様・・・!あれほど言ったのに・・・!」


「す、すみません師匠!すみませんっ!」


「あいつ・・・!知ってて提案してきたなっ!!」


「あいつ・・・?」


「私の式だよ・・・。さて、どうするかな・・・休めと言われると休むものかと思うし休むなと言われれば休んでやろうという気持ちになる」


「師匠・・・もしかして、師匠を休ませるために俺は呼ばれたんですか?」


「・・・まあね。しかし・・・私はできればお前をこの件に関わらせたくはないのだがね」


「・・・俺の手には負えないと?」


「負えないだろう?ーーー腹の探り合いみたいなものは」


霜惺がニヤリと笑う。


「まあ・・・頼むとしたら術者を探して欲しいかな。後はまた起きないように目を光らせておいて欲しいことくらいだな」


「・・・また?」


霜惺の言葉にひっかかりを覚えたようで龍作が首を傾げる。


「少し前に貴族の姫が拐われるという事件があっただろう?」


「解決したんじゃ・・・まさか!術者ってあの事件に人が絡んでたんですか!?」


龍作は驚きのあまり前のめりになって叫んだ。


煩いなと思いながら霜惺は脇息にもたれ掛かかりながら扇を開いて口元を隠す。


「解決も何もまだしていない。本当に術者が関わっているなら妖怪だけ退治しても無意味だ」


また別の妖怪を探せば良いし、この都には妖怪なんて探せばいくらでもいる。


不意に、龍作が「ん?」と首をまた傾げた。


「術者が顔を見ていたとしたら師匠も危ないんじゃ・・・?」


それを聞いて霜惺は顔をしかめる。


「む・・・それなら姫も危ないではないか」


龍作に言われるまで気づかないとは、妖怪を退治して安堵していたのもあるがどうやら一度休んだ方が良さそうだなと霜惺は思った。


「ひめ?」


「助かった姫がいるのだよ・・・まあ、一人だけだが」


「一人だけ?なぜその姫だけが助かったのでしょう・・・」


「さあな。連れてこられたばかりだったのかもしれないが・・・まだ何も聞き出せなくてな・・・その、酷く怯えられていてな。聞きにくい話ではあるし・・・いざとなったら桜木の姫を貸してくれ」




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