07
本当は誰かに良いように使われるなんて嫌いだ。
それこそ腸が煮えくり返りそうだ。
政治に巻き込まれるのが嫌で出世を拒んできた。
しかし、どうしてもあの姫の儚げな顔が頭から離れない。
目を閉じれば脳裏に浮かぶ。
こういうのを一目惚れというのだろうか。
* * *
数日後、永鬼から思わぬ知らせを聞かされた。
例の妖怪の巣には何者かの足跡と、呪術の様な跡が見つかったという。
「まさか現実になるとはな・・・あながちあの父親が本当にやったのではあるまいな?」
「目的は分からないが先日の態度を見る限りありえないことではない」
確かに。と霜惺は頷いた。
そもそも、彼女は本当に彼の娘なのだろうか?
唯一生き残っていた娘の身元が分からなかったため取り敢えず依頼主の元へ運んだら当家の姫だというので置いてきた。
目覚めた彼女も何も言わなかったので間違いないだろうと思ったのだが、我ながら少し浅はかだったかもしれない。
「・・・取り敢えず、お前が見つけたという呪術の様な跡を見てみたい」
霜惺はそう言うと先日の岩山へと向かった。
* * *
岩山へ着くと、永鬼は洞窟の裏へと霜惺を案内した。
「これは・・・」
そこには確かに奇妙な跡があった。
地面にあいた規則正しい小さな穴と何かを消した様な跡だった。
「あの日・・・誰かいたのか?」
「いや・・・あの日は間違いなく側にはいなかった。人がいれば分かる」
霜惺の疑問は永鬼によって即座に否定された。
「では、あの日ではなく・・・ここで・・・まさかあの妖・・・誰かが操っていたか使役されたものだったのか?」
「呼び起こした、という可能性もあるぞ、霜惺」
「分からないな。あんな妖怪を呼び出すなり使役するなりして一体何の利益があるというのだ?」
「それを考えるのがお前の仕事だ」
「む・・・。しかし、そうなると事は簡単じゃないな。妖怪を退治しただけでは終わらないではないか・・・」
「お前、今日から少し休め」
「は?」
「ここから先は弟子を使え。さすがに不眠不休では倒れるぞ」
「しかし・・・」
「いざという時に戦えないと困るのはお前だ。姫の様子見でもすれば良い」
しばらく腕を組んで唸っていたが、やがて霜惺は「分かった」と頷いた。
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