05
しかし、これ以上彼女に聞くのは酷だろう。
見たところ、彼女もまた心に深い傷を負っている。
そうして、ふと霜惺はある事に気がついた。
「姫。御付きの女房は?」
霜惺がそう聞くと、彼女は一瞬はっとして目を反らした。
「・・・おりません」
それを聞いて霜惺は目を見開いた。
「そうですか」
そう呟くと、霜惺は、また明日来ると言って部屋を去ろうとした。
「なりません!」
不意に姫が叫んだ。
あまりの悲痛さに霜惺は目を見開いて振り返った。
「姫…?」
「なりません!貴方様はここへ来るべきではありません・・・!」
「姫…落ち着いてください」
瞳に涙を浮かべながら訴える姫を霜惺は慌てて宥める。
「…だめなのです。もうここへはいらっしゃらないでください」
* * *
姫の元を出て霜惺が向かったのは、依頼主の部屋だった。
「失礼致します。霜惺です」
「入れ」
「失礼します」
一礼をすると、霜惺は目の前に座る男を見上げた。
彼は姫の父親だ。
「姫を救った事、礼を言う」
依頼主は威厳のある落ち着いた声で一言そう言った。
「いえ。それよりも、お聞きしたい事がございます」
「何だ?」
「どうして姫に御付きの女房がいないのですか?」
それを聞いて男はにやりと笑みを浮かべた。
「どうして姫がいなくなってから二日も探さなかったのですか?」
霜惺は怒りに拳を震わせる。
「姫が死んでも良かったというのでございますか・・・っ!」
霜惺の悲痛な叫び声が室内に響いた。
それを雨に打たれながらえい鬼は屋根の上で聞いていた。
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