10
三人の会話を、白蛇は中庭から聞いていた。
ぎりっと拳を握りしめる。
不意に、気配を感じて彼は塀の向こうを見据えた。
すると、塀の向こう。
向かいの邸の木の上に漆黒の影を見つけた。
あやかし屋と書かれた看板を見て、季雨は呟く。
「ここか」
一際高い木の上から見下ろすと、中庭にいる人物と目が合った。
見張りか、と心の中で呟くと、彼は両手にクナイを構えて飛んだ。
塀を片足で蹴るとその勢いのまま庭にいた人物にクナイを投げる。
しかし、相手はそれを難なくかわしたばかりかクナイを全て跳ね返した。
暗闇に金糸が舞う。
それが相手の首の後ろで結われた髪だと気付く。
「忍か」
「そう言うお前は祓い屋の忍頭?」
ふっと、口角を上げるのを見て季雨は飛びすさる。
体を宙で反転させると、懐から取り出した物を投げつける。
「あやかし屋へ。斎紫様からだ」
それだけ言うと、季雨は塀を飛び越える。
一瞬、視界を桜が舞った。
驚いて目で追うと、屋敷の中にいる女と目が合った。
―――菘。
相手も驚いた様に目を見開いていたが、すっと目を反らすと季雨は夜闇に姿を消した。
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