11



* * *





桜が舞った様な気がして菘は空を見上げた。


少し整理させてほしいと言って和葉の部屋を後にした所だった。


「あやかし屋へ。斎紫様からだ」


不意に外から聞こえた声に菘は目を見開いた。


宙を舞う漆黒の衣。


呆然とその姿を目で追っていると、不意に目が合った。


その唇が、菘と動いたのを見てはっと顔を青ざめた。


「季雨、様」


「へぇ、季雨って言うんですか。あいつは」


突如、向かいから聞こえた声に菘は体を強張らせる。


暗闇の中から白蛇が姿を現した。


「どうして・・・」


「中庭にいたはず?」


はっ、と白蛇は笑う。


「俺は忍びですから」


一瞬で動くことなど造作もないと彼は言う。


白蛇は右手に持ったクナイを菘の喉元に向ける。


彼の金色の瞳が一瞬きらりと光った様に見えた。


「あなたがあちら側につくというのなら、容赦はしない。今ここでその首を跳ねる」


不意に、背後から肩を引き寄せられて菘は目を見開く。


「そのくらいにしておけ、白蛇」


「和葉様っ!?」


「その巻物を寄越せ。菘の事は俺が保証する」


和葉にそう言われ、白蛇はしぶしぶ巻物を手渡す。



「何がそんなに気に入らないんだ?」


「はっきりしない所ですかね。見方なのかそれとも敵なのか。祓い屋の巫女だったのには変わりはない。」


「そうか」


不機嫌さを露にする白蛇にそれだけ言うと和葉は巻物に目を通す。


そんな二人のやりとりを菘は和葉の背後から見ていた。


「すみません・・・」


「気にするな。ーーーこれはあいつを呼ぶか」


「蓮さんですか?」


蓮さんと白蛇が言った瞬間、和葉は目に見えて分かるくらい顔をしかめた。


あっけにとられていると、あはははは、と白蛇が笑った。


「そんなに嫌なんですか?」


「鬱陶しい。あいつがいると煩い」


こんな和葉は始めて見たと菘が思っていると、白蛇が片目を瞑って笑った。


「これが和葉様ですよ。蓮さんが来たらもっと面白いものが見れますよ」


「面白いもの・・・?」


「ええ。ね、和葉様?」


「・・・・・・」


「あらら?拗ねちゃいました?」


「・・・・・・」


段々と和葉の眉間に皺が寄るのを見て、白蛇は顔をひきつらせる。


「そ、それじゃー俺はこれでー・・・」


ひらひらと手を振りながら窓から出ていく白蛇を見送る。


ちらりと和葉の方を見上げると、目があった。


「・・・今夜はゆっくり休め」


「はい・・・」


衣を翻して踵を返す和葉の背中を呆然と見つめる。


聞きたい事はたくさんあったのに、言えなかった。



自分自身、まだ整理はついていないから何を話せばいいのかも分からない。


和葉様は何も聞かない。


自分は彼の優しさに甘えているのだ。



[ 58/61 ]

[*戻る] [次へ#]
[目次]
[しおりを挟む]



(c) 2011 - 2020 Kiri






BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -