04

 




盆に酒を載せて菘は慎重に階段を登っていた。


ここの階段は結構急だ。


ようやく登りきって一息吐いて、目の前にある部屋へ向かって声をかける。


「―――失礼します」


「―――ああ」


短い答えを聞いて室内に足を踏み込むと、菘は目を見開いた。


「白蛇様・・・」


「こんばんは。姫さん」


和葉の元まで行くと、菘は片膝をついて素早く盆を畳みの上に置く。


「もう一つ持って来れば良かったですね。今、お持ちします」


「ああ、いらないよ。杯の一つや二つこの部屋にはありますもんね」


「まあ・・・」


短く答えて懐から杯を取り出すと和葉は白蛇に渡した。


杯を受け取って白蛇は和葉を凝視する。


「・・・・・・」


「何をしてるんですか?」


和様は黙って見てるし、白蛇もそのままずっと凝視してそうだったので思わず苦笑いをしながら菘は問うた。


「いや、よくこれで会話が成り立つな、と」


「はあ・・・」


訳が分からず菘は首を傾げる。


「自分の場合はほら、よくしゃべるじゃないですか。でも姫さんがこんなにしゃべるとも思えないし・・・どうなっているのかな、と。意外と姫さん相手だとしゃべるとか?」


「無駄話は良い」


「はいはい。本日はどのようなご用件で?」


「おそらくそのうち蒼詠が帰ってくるだろう。俺が留守の時に来てたら言伝を頼む」


「分かりました」


「それともう一つ。蓮夜がここに来ようとしてたらお呼びじゃないと伝えておけ」


「はあ、分かりました。何て言うか・・・相変わらず蓮殿に対する態度が・・・」


白蛇は皆まで言わず苦笑いをする。


「このくらいが丁度良い。あいつがいるとうるさいからな」


「なるほど!!つまり和葉様は鈴姫様とのこの時間を邪魔されたくないと。ですよねぇ、あの人すぐ姫さんの事気に入りそうですし、実際興味あるみたいですし!!」


はははと楽しそうに笑う白蛇を睨みつけて和葉は杯を煽る。


が、もともと細い目をさらに細めて和葉は口を開く。


「―――依頼人。おやっさんに怪我を負わせた奴だったぞ」


そう言うや否や、和葉の足ぎりぎりの所にクナイが突き刺さる。


「―――生ぬるい」


いつの間に立ち上がったのか、上から見下ろす白蛇の瞳が金に光っているのを菘は見た。


風ではなく、彼の妖気で束ねられた髪が蛇の様にうねる。


「俺が遭遇したら始末しても良いんですよね?」


普段よりも数段低い声音に菘は息を飲み込んだ。



「いいんですよね?」


尚も畳み掛ける白蛇に和葉は杯を降ろすと鋭い目つきで彼を睨んだ。


「駄目だ」


「どうしてっ・・・!!相手はおやっさんを殺そうとしたんですよ!?」


「奴は自らを情報屋と言っていたがおやさんは何か知っている風だった。もし、幕府お抱えの忍だったらどうする?こちらから喧嘩を売ってどうする?俺達が今すべき事ではない」


「戦だって何だってすればいい。こちとら」


「―――白蛇。お前の気持ちは分からなくもないが今はその時ではない。無益な争いをして大勢の死人を出すわけにはいかない。そうだろう?」




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